2011 Fiscal Year Research-status Report
ポストゲノム研究における政策-科学共同体の相互形成過程に関する科学社会学的研究
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23501199
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福島 真人 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10202285)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / シンガポール / アメリカ |
Research Abstract |
本年度は当初の研究計画どおり、タンパク3000計画に関する基本的文献資料の収集とならんで、特に基本タンパク2500個の構造分析を扱うことになった理研における、研究の前段階におけるキーパーソンの同定と、彼らへの長時間に渡るインタビュをおこなった.タンパク3000は、その中核的なメンバーにおいては、理研における先駆的なライフサイエンス研究計画にその起源があるが、この研究過程を調査するうちに、タンパク3000計画が、単に国際的なポストゲノムの研究競争というだけでなく、当時まだ独立の存在であった科学技術庁と文部省による、ある種の省庁間対立による影響というのが、かなり大きかったという点が明らかになってきた.つまり大学における基礎研究を所管する文部省に対して、科学技術庁は、それとは異なる研究プログラムを打ち出す必要があり、そうした新規の研究計画の作成に対しては、こうした省庁間の思惑の違いが大きく作用しうるという実態をあきらかにしつつある. 特に理研内部では、タンパク3000以前に、その前駆形態となった総合的なライフサイエンス計画が存在したが、こうした計画を国際的なフオーラムとすべきなのか、それともより閉ざされた形での国家型政策とすべきかについての研究者間の意見の対立があり、前者の象徴であったNMRパークといった国際的な計画を強く支持していたWuthrichのような有力なノーベル賞学者が、のちにタンパク3000計画に対する厳しい批判者になった理由としては、この研究目的に関する食い違いが重要なファクターになったことが明らかになりつつある.またこの点が、のちに国際的な評価や、特に国内メディア上で、タンパク3000に対する批判的な議論が強まった大きな原因の一つであることが予想される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
少なくとも基礎資料の収集、およびキーパーソンに関するインタビュにおいては、当初想定していたのとは異なる新事実がかなり発見できたため、その意味では当初の計画以上であると自己評価しうるが、他方関係官庁(この場合は文部科学省ライフサイエンス課)における議事録その他の収集、分析については、4回に渡る移転、省庁の合併といった組織変更に伴い、記録のかなりが紛失しており、さらに震災の影響による関係者の多忙化もあって、やや停滞している.この点でプラスマイナスあわせて順調とした.
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Strategy for Future Research Activity |
今後も計画通り研究を進めるが、政策過程のレベルについては、議事録その他の収集がやや難しいので、関係者に対するインタビューにシフトする.さらにタンパク3000はその後半から、創薬を意識した出口志向が強まってくるので、日本の創薬体制についての観点も、インタビュー等に折り込み、担当者たちの創薬についての理解の構造も探る方向で調査を展開する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
予算は大体予定通り使用しているが、海外国際学会への参加を今年は予定どおり行い、この研究計画に関係した知見、意見交換をおこなう.また協力を予定していた学生の事情により、謝金を用いず自分で分析を行っているため、その分は出張等の旅費に回す予定である。その他は予定通りである.
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