2012 Fiscal Year Research-status Report
ポストゲノム研究における政策-科学共同体の相互形成過程に関する科学社会学的研究
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23501199
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福島 真人 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10202285)
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Keywords | 科学技術社会論 / 科学政策 / ラボラトリ研究 |
Research Abstract |
本年度の基本的な成果は二つあり、まずタンパク3000プログラムを実践した現場のさまざまな関係者に、現実のプログラムの実施状況について、学問的および行政・組織論的な観点からインタヴュを行い、今まであまり明らかになっていなかった具体的データを明らかにできた点である。ここでは特に、主導的な役割を果たした構造生物学者、理研横浜センタにおけるプログラムの実施者、理研和光本部において、タンパク3000の事務的準備を行った事務方、さらに科学技術庁の関係者で、横浜センターに深くかかわった理事等が含まれる。この過程で明らかになってきたのは、一つはタンパク3000の中核概念である、「構造ゲノム科学」という分野についての理解や知識の共有がバラバラであり、構造生物学者側に特に、こうした情報論的アプローチに対するある種の抵抗があったという点である。また行政側と実践する研究者側の、このプログラムに対する意識や理解にもかなり差があることが明らかになってきており、昨年度からのテーマとしての、国際的なフォーラムとしてのNMRパークという当初の案が、タンパク3000へと変化していく過程がだんだんと見えてきた。この変化の背後には、行政と科学共同体の複雑な駆け引きがあり、そのダイナミズムによって、計画の内容が大きく変化したのである。 これと並行して、当時の海外の動向についても組織的な雑誌、文献調査を行った。ここで明らかになってきたのは、日米間での駆け引き(日本がタンパクの網羅解析という流れに火をつけ、欧米がそれに反応するという図式)と同時に、ゲノム解析のブームに乗って、情報科学が主導するライフサイエンスというある種の熱狂(hype)が特にアメリカにおいて著しいという点である。構造ゲノムという言葉は、そうした情報論的熱狂に伴って知られており、日本とは対照的な状況が明確にできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
かつての調査での人脈を利用して、予想外の興味深い情報が得らることも多いが、他方、理研の改組や過去に重要な役割を果たした科技庁系の関係者といった人々へのコンタクトや予定の調整が難しく、特に行政資料は破棄されていたりして、その収集に思わぬ時間がかかっているため、結果プラスマイナスゼロで、予定通りという感じである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は最終年度にあたり、過去2年間のデータの蓄積を背景に、このプログラムのもっとも中核のメンバーに対する聞き取り、および行政関係資料の解析に努める。特に議事録関係はすでにかなり破棄されており、こうした中核メンバから情報を入手すると同時にその全体像を明らかにする。 同時にヨーロッパ、アメリカ、シンガポールの研究者と情報交換しながら、特にポストゲノムとして行われた各国の政策が、それぞれ異なった力点を置いた科学政策になっている点について、タンパク3000と比較しつつ、考察を深める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
原則的に支出のメインは、インタヴュの聞き取りのテープ起こし、文献・資料購入、に充てられるが、成果を海外でも公表するため、スウェーデン、シンガポール等で、タンパク3000関係の発表を行い、また国際学術ジャーナルへの発表も準備しているため、英文校正等にも出費する。
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