2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23501204
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Research Institution | Maebashi Institute of Technology |
Principal Investigator |
小林 龍彦 前橋工科大学, 工学部, 教授 (10269300)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 漢訳西洋暦算書 / 和算 / 天文暦学 / 比較交流史 |
Research Abstract |
近世日本の科学史研究では、ベルギー人宣教師南懐仁を主編者とする『霊台儀象志』の研究は多くを見ない。本書は、寛延元(1748)年に我が国に舶載されたが、同書巻四に含まれる振り子の振動や物体の自由落下の記述に関心を寄せたのは、間重富や高橋至時・景保らであった。筆者は国立公文書館蔵の写本『天学雑禄』(高橋景保)を調査し彼らの研究を知り得た。この事実は東北大学蔵の写本『天学秘决集』(高橋至時)、日本学士院蔵の『垂球精義』(間重富)からも追認できた。特に至時が振り子の振動数と糸長の比例関係を「試之果シテ合于此法」と指摘したことは注目に値する(「漢訳西洋暦算書と『天学雑禄』-楕円軌道論と物体の落下法則の受容をめぐって」、『一八世紀日本の文化状況と国際環境』、思文閣出版、2011年)。高橋・間らによる振り子の振動と物体の落下に関する研究は、近世日本の暦算家は物理事象に関心を抱かなかったとする通説に再考を迫るものになっていると言えよう。 一方、享保11(1726)年に舶載された梅文鼎遺著の雍正2(1724)年版『暦算全書』(紅葉山文庫蔵)の研究では、同書の序文が楊作枚の『三角法会編』のために書かれたものであったことを明らかにし(「『暦算全書』の訓点和訳と序文をめぐって」、『科学史研究』、No. 259、2011)、この事実を第五回中国科技典籍国際会議で発表した(北京、2011年)。この研究は中国数学史研究の新たな進展に寄与するものと言える。また同書の『平三角法挙要』の冒頭に書かれる「点線面体」等の定義は、梅文鼎が利瑪竇の『幾何原本』から援用・敷衍したもので、これが近世日本の暦算家によって受容されていた事実も指摘した(「長井忠三郎と『三角法挙要』、数理解析研究所講究録1739、2011年)。ここでの指摘は18世紀の日中欧数学交流史の研究に新しい一頁を刻んだものと評価でき得よう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
漢訳西洋暦算書の一つである『霊台儀象志』の研究はこれまであまり注目されてこなかった。筆者は、2011年5月の日本科学史学会総会年会(東京大学)において高橋景保による研究を中心にして発表した。その後の追加調査によって得られた知見をもとに2012年3月の九州大学伊都キャンパスで開催された第2回数学史シンポジウムにおいて高橋・間らによる振り子の振動と物体の自由落下に関する研究を総合的に発表することができた。特に後者の九大シンポジウム参加者からは驚きの声が挙がったことを記憶しているが、このような反応は筆者によるこの分野の研究が数学史家や科学史家に新鮮な感動を与えたものと評価することができよう。この事実は、漢訳西洋暦算書の研究に対する研究者からの期待の表れと思われる。 また、2011年9月、北京清華大学で開催された第五回中国科技典籍国際会議において発表した『暦算全書』の研究では、中国数学史家から、そもそも雍正2年版の『暦算全書』が存在することすら知らなかったと言う驚きの声が聞こえた。また、同会議の閉会式では、内蒙古師範大学教授の郭世栄氏が会議の講評として雍正2年版『暦算全書』の研究の重要性を指摘されたことは、中国数学史家の関心の表れと言えると共に、今後の日中数学交流史の研究に弾みを付けたものとして評価でき得よう。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、前年同様に各史料収蔵機関に保管される漢訳西洋暦算書の調査を基本としながら、近世日本の数学者や天文・暦学者などにこれら漢訳書がどのように読まれ、どのように研究されていたかと言った近世科学思想史に関わる研究を継続することにする。具体的には改めて近世日本の数学者・天文暦学者の間での『霊台儀象志』の研究の広がりについて追求するが、特に同書で展開された海洋航海法が、高橋至時や本多利明・坂部廣胖などによって研究された形跡があることから、近世後期の西洋航海術法の修得との関連も視野に入れながら研究を推進していく。 また、個別研究として中根元圭の生涯と業績に関する研究も実施する。中根元圭は、元禄・享保期の教養文化人と注目されるが、彼の生涯等の詳しいことはまったく分かっていない。その一方で、元圭は、18世紀の初頭に第8代将軍徳川吉宗に対して禁書令の緩和を進言したとされるが、実は、このことの歴史的裏付けはまったく取られていないのが事実である。中根元圭の研究は、まさしく漢訳西洋暦算書の総合的研究の前史的意味を持つものとして位置づけられることから、本年度の重点課題として推進していく。このような中根元圭に関わる調査は漢訳暦算書の所在調査と同時進行で行うことにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)消耗品費 文書ファイル \7,502,プリンタートナー\20,000,小計27,502 (2)旅費【調査】京都大学理学部調査(4日間)\73,000,国立公文書館(10日間)\122,000【学会発表】京大数理研究所(4日間)\73,000,日本科学史学会(3日間)\55,000,東アジア典籍国際会議(4日間)\76.000,内蒙古師範大学研究会および北京清華大学史料調査(7日間) \280,000, 小計\679,000(3)謝金等 史料整理(1人4時間×800×15日)\48,000, 小計\48,000(4)その他 複写依頼\80,000 小計\80,000 合計 \834,502
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Research Products
(8 results)