2011 Fiscal Year Research-status Report
近代日本における動物「種」の認識過程とその天然記念物、生物多様性研究への寄与
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23501210
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
溝口 元 立正大学, 社会福祉学部, 教授 (80174051)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 動物学史 / 日本科学史 / 朝鮮博物学会 / 動物分布 / 天然記念物 / 生物多様性 |
Research Abstract |
本年度の研究計画に従って、以下の諸点を中心に研究を遂行した。1.資料の収集とデータ入力:江戸期までの「千蟲譜」等の本草書、明治期以降の「動物学雑誌」等の学術雑誌に掲載された新種記載を含む動物図を分布域に注意しながら、物品費で購入したノートパソコンにデータ入力した。資料は本草書は国立国会図書館等に所蔵されている実物、実物の復刻本、デジタルアーカイブ等で公開されているものを用いた。学術雑誌は、東京大学等研究機関が所蔵しているものを利用した。著作権の範囲内で複写を行い、データとして整理し保存した。2.現地調査:日本統治時代の朝鮮半島における動物相、自然史研究の様相を韓国・ソウルにおいて現地調査した。動物標本が多数所蔵されていた記録がある恩賜科学館の所在地や当時の場所からは移転したソウル動物園の展示物の調査、当時の資料として「朝鮮博物学雑誌」などを分析した。さらに、当時、当地に赴いた日本人動物学研究者の研究上の活動を分析した。また、韓国人研究者への戦前の朝鮮半島における博物学に関する聞き取りを行った。その結果、朝鮮戦争時に生物標本を含む当時保存されていたかなりの量の資料が破壊・焼失されたのではないかとの考えがあることを知った。3.成果報告:ウニを中心とした棘皮動物をどのように捉えていたのかについては、文化史とも関連させた調査結果をまとめることができ「日本動物学会第82回大会(旭川)」において「日本における棘皮動物研究史」と題して発表した。また、日本統治下の朝鮮半島における動物調査については、京城帝国大学予科や恩賜科学館に在籍する日本人研究者が朝鮮人研究者の手助けを受けながら精力的に取り組んでいたことを突き止め、「日本科学技術史学会第14回研究発表会(東京)」において「植民地朝鮮在住日本人動物学者の活動」との題名で報告するとともに質疑応答、情報交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的は、近代日本における動物「種」がどのように認識されてきたかを歴史的に明らかにすること。そして、それが天然記念物や生物多様性研究にいかに寄与してきたのかを分析することである。研究方法は主として、文献調査と現地調査である。文献調査としては、国立国会図書館や研究機関等に所蔵されている江戸期の本草書・動物図の現物、市販されている復刻本、デジタルアーカイブ・博物館として閲覧可能な本草書の図版を用いて行った。調査とデータ入力は継続的に行っており順調に進展している。今後も続行していく予定である。また、日本における「種」の認識を特徴づけるためには隣国との比較が重要と考えた。そこで、韓国ソウルに赴き現地調査を行った。日本統治時代には大量の標本類を含む資料が展示・収納されていた記録がある恩賜科学館の所在地および展示品・所蔵品に関する図録を発見し調査した。なお、同所が恩賜科学館として利用される前は、初代の朝鮮総督府庁舎であったことが判明した。さらに、韓国に在住した日本人動物学者である森為三は、詳細に朝鮮半島の動植物を実地調査し、その結果を日本の学術雑誌に投稿するとともに、「朝鮮博物学会」と題する研究者団体の設立に関与し、機関誌「朝鮮博物学会雑誌」を刊行したこと。今日、韓国の固有種として知られる珍島犬は、森為三の研究対象であったことが判明した。動物学領域の知見としては、朝鮮半島は日本列島の東西に拡がった地形と異なり南北に延びているため、生物相としては日本列島より乏しく、また、固有種の認識も日本より薄かったことが浮かび上がってきた。しかし、チョウの研究では変異に対して詳細な注意が払われていた。そこから、日本統治下において、日本人研究者が安易に新種として記載しているという指摘をしていたことが資料から明かとなった。以上のことからおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
文献調査・データ入力と現地調査および当地の研究者・関係者に対する聞き取り調査という基本方針を維持し、各年度の研究計画に沿って研究を実施する。日本の江戸期の本草書に記載された図譜の収集、整理、分類。明治期以降の専門学術雑誌に記載された新種の記載を含む動物分布に関する記事・論文の調査を行っていく。さらに、生物相が日本とは異なる点がみられる台湾においては、日本統治下時代、有力な動物分類学研究者として知られていた青木文一郎やジュゴン(人魚)などの動物伝説にも詳しかった平坂恭介が台北帝国大学理農学部のスタッフとして就任していた。彼らの現地での活動を跡付けていきたい。さらに、日本の両生類・爬虫類の研究は20世紀初頭、アメリカの首都ワシントンに所在するスミソニアン博物館館員で来日経験があるスタイネガーの調査報告が基本文献となっている。日本での調査結果が同博物館アーカイブに所蔵されているので標本とともに現地調査する。日本での調査には、飯島魁や石川千代松など初期の日本人動物学者も協力し、新種とされた動物に献名がなされているので、それに関する状況も調査も考えている。また、これまでの予備的調査から日本の魚類については、スタンフォード大学のジョルダンが調査船アルバトラス号で日本近海を調査し、スミソニアン博物館の機関誌に報告している。これに関しても詳細に調査していく。魚類では日本の動物学者田中茂穂の研究が知られているが、それとの関係も明らかにしていきたい。これらによって得られた成果は、「Historia Scientiarum」、「生物学史研究」、「科学技術史研究」等の科学史系専門雑誌に原著論文として投稿する。さらに、2013年度にイギリス・マンチェスターにおいて開催が予定されている国際科学史会議において報告し、外国人研究者からレビューを受けることを考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度の補助金配布は予定時期より遅れ、かつ減額予想も伝えられたので台湾調査の計画が確定できず、実施も実現できなかった。また、謝金、物品費の支出も抑えたため未使用額331970円が発生してしまった。幸い、補助金配布額が確定したので、研究計画に従って研究を遂行していく。近現代における大学等の研究制度や教育内容の歴史的変遷を把握するため、年史を含む高等教育史に関した図書や国内外の天然記念物の選定経緯・関連法の制定事情、具体的な対象となった生物の記載に関した著作を物品費から購入する計画である。パソコンを使用するに当たって生じる関連消耗品や文房具も物品費から支出する。これらは、設備備品の明細に記した内容の範囲で実施する。また、外国旅費を海外における調査活動で使用する。明治期以降の動物分類学、形態学を中心とした日本の動物学の進展において動物地理学の研究にも有用な情報の提供がみられる台湾において実地調査する。とくに戦前の台北帝国大学理農学部の後身と捉えられる現在の国立台湾大学の関連学部学科、付属施設で調査を行う。図書館における戦前の動物学関係図書、台湾総督府や学内機関誌に掲載された研究報告、採集された動物標本の実態調査を念頭に置く。未使用金額をここで支出し、研究を当初の軌道に乗せる。さらに、計画通りアメリカの首都ワシントンに所在するスミソニアン博物館も訪れ調査を行う。そこには、戦前に館員が来日し、日本および朝鮮半島や台湾で日本の動物学者の協力を得て採集した日本産両生類・爬虫類の標本が保存され、閲覧が可能な状態になっているので、許可された範囲で現地調査を行う。江戸期の本草学、明治以降の生物系専門雑誌に記載された新種を含む動物図、分布図等を系統的に収集・整理しデータベース化につなげていく作業は継続するので、そのための図書館等での複写費や入力のための謝金の支出を行う。
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Research Products
(4 results)