2011 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本の科学界における素粒子論グループ・基礎物理学研究所の役割に関する研究
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23501212
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
小長谷 大介 龍谷大学, 経営学部, 准教授 (70331999)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 素粒子論グループ / 湯川記念館 / 基礎物理学研究所 / 戦後日本 / 湯川秀樹 / 朝永振一郎 / 坂田昌一 |
Research Abstract |
本研究は、素粒子論グループと彼らの活動と深い関係をもつ京大基礎物理学研究所(以下、基研)を、歴史的に調査、分析し、戦後日本の物理学界の発展との関係、さらに日本科学界全体に与えた影響を明らかにするものである。 この研究の目的に照らし、平成23年度においては、湯川記念館(1952年設立)、続く基研(1953年設立)の運営会議、研究部員会議の報告を掲載している『素粒子論グループ事務局報』(1952年~)を分析した。この分析を通して、湯川記念館(以下、記念館)の設立に際して、設立の原動力となった素粒子論グループのなかに「世代」に根ざした異質な精神面が共存していたことを明らかにした。湯川秀樹や朝永振一郎らの素粒子論グループの「ボス」世代は、「コペンハーゲン精神」や理研の「自由」な雰囲気といった戦前からの伝統の復活を、記念館に期待したのに対して、早川幸男や山口嘉夫らの「若手」世代は、戦後の経済的困窮状態にあった研究環境にからむ諸課題の解消を、記念館に求めたのであった。これらの精神面の共存は、記念館設立に対する異なる役割に現れ、かつ、戦前のよき伝統を体現する理想と、戦後の苦境に対応する現実策を記念館に注入することにつながり、共同利用研としての記念館・基研の精神的および物質的基盤を形作ったのである。つまり、素粒子論グループの「世代」に根ざす異なる精神面の共存は、戦後日本の新しい研究制度の一つ、共同利用研の設立に影響を与えたといえるのである。 また、高岩義信氏らの基盤研究(A)「湯川・朝永・坂田記念史料の整理および史料記述データベースの整理」(2008-2010年度)の研究成果を活用するために、湯川記念館および名古屋大学坂田記念史料室を訪問し、史料の現況確認を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、研究の目的を達成するために、平成23年度では次のように調査を進めるとしている。(1)基研の歴代所長へのインタビュー(物故者は除く)を実施する。(2) 京大の湯川記念館史料室、筑波大の朝永記念室、名古屋大の坂田記念史料室の史料の全体像を確認する。平成23年度は湯川史料の把握を優先する。(3)『素粒子論グループ事務局報』を通して、基礎物理学研究所の初期の運営会議、研究部員会議の内容を調査する。(4) 湯川記念館および基研関係の物理学者へのインタビューを実施する。さらに (1)~(4)を踏まえた調査・分析結果を学会報告する。 実際の本年度の研究は、(2)と(3)を中心にして進められた。『素粒子論グループ事務局報』や、湯川記念館の所蔵しているその他の史料を調査・分析し、湯川記念館設立に際して見て取れる、素粒子論グループの「ボス」世代と「若手」世代の精神面の異質さとその共存を鍵にして、戦後日本の新しい研究制度の形成過程の一断面を明らかにした。 だが、上記の(1)および(4)に該当する、基研の歴代所長へのインタビューや、湯川記念館および基研に関係する物理学者への聞き取り調査を十分に実施することはできなかった。一つの理由は、湯川記念館所蔵の史料の現況確認に多くの時間を費やすことになったため、聞き取り調査を実施する時間的余裕がなかったことである。 以上のことから、平成23年度の研究の達成度は、当初の計画の内容からすると、十分に実施されたとは言えないため、「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に実施された研究は、当初の計画から照らし合わせると、京大の湯川記念館に所蔵されている史料の調査が十分に進みながらも、基研の歴代所長へのインタビュー(物故者は除く)の実施、湯川記念館および基研関係の物理学者へのインタビューの実施が十分でなかった。そのため、今後は、京大の湯川記念館史料室の史料の現況確認、『素粒子論グループ事務局報』を通した、基研の初期の運営会議、研究部員会議の内容の調査を継続しながらも、聞き取り調査に重点をおいて、研究を実施していく。それに対応して、今後の学会報告でも、聞き取り調査を活用した研究報告につとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度からの継続研究として、京大の湯川記念館所蔵の湯川関連史料の調査、『素粒子論グループ事務局報』を通した、基研の初期の運営会議、研究部員会議の内容を調査する。これにかかる交通費や諸経費を計上する。 本年度の研究の残された課題に関連して、基研の歴代所長へのインタビューを可能な範囲で行う。基研の第3代所長の佐藤文隆(京大名誉教授)へのインタビューを実施するとともに、すでに物故されている湯川秀樹(初代所長)、牧二郎(第2代・第4代所長)、西島和彦(第5代所長)以外の、第6代所長の長岡洋介(京大名誉教授)、第7代所長の益川敏英(京大名誉教授)、第8代所長の九後太一(京大教授)へのインタビューを歴代順に行う。さらに、湯川記念館および基研関係者への、記念館・基研設立、基研の制度的形成、素粒子論グループの活動に関するインタビューを行う。現段階で考えている関係者は、次の方たちである。小沼通二(慶応大学名誉教授)、早川幸男のご子息・早川尚男(基研教授)、山口嘉夫(東京大学名誉教授)。これらのインタビューの実施に際して、インタビュー対象者への謝礼、交通費、実施のための諸経費を計上する。 本年度は、京大の湯川記念史料室にある湯川史料の現況確認を優先したため、平成24年度は、名古屋大の坂田記念史料室の複数回の訪問によって、坂田史料の現況確認につとめる。また、坂田史料の精査にあたっては、名古屋大学物理学教室の形成や、マルクス主義思想と科学の関係をめぐる点に着目する。これらの史料調査および分析に際しての交通費や諸経費を計上する。 さらに、これらの調査を踏まえて、その成果を、2012年11月の科学史西日本大会、2013年3月の日本物理学学会で研究報告を行う。学会参加や報告にともなう交通費や諸経費を計上する。
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Research Products
(3 results)