2013 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本の科学界における素粒子論グループ・基礎物理学研究所の役割に関する研究
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23501212
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
小長谷 大介 龍谷大学, 経営学部, 准教授 (70331999)
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Keywords | 素粒子論グループ / 基礎物理学研究所 / 三村剛昂 / 理論物理学研究所 / 広島大学 / 波動幾何学 / Kavli研究所 |
Research Abstract |
本研究は、素粒子論グループ(以下、素論G)と彼らの活動と深い関係をもつ京都大学基礎物理学研究所(以下、基研)を、歴史的に調査、分析し、戦後日本の物理学界の発展との関係、さらに日本の科学界全体に与えた影響を明らかにするものである。 この研究の目的に照らし、平成25年度の当初の研究計画のうち、小沼通二氏、田中正氏、九後太一氏、早川尚男氏らの基研関係者への聞き取り、California大学Santa Barbara校のKavli理論物理学研究所への訪問および当研究所の運営に関する聞き取りなどを実施した。とくに、Kavli研究所に関しては、基研関係者から聞かれる、研究会運営制度における基研とKavli研究所との歴史的つながりを現地の聞き取りでは確認できず、基研関係者の見解と相違が見られることが分かった。また、平成24年度に取り組んだ、素論Gの一員だった三村剛昂と広島大学理論物理学研究所(以下、理論研)に関する史料の調査・分析も継続して行った。その眼目は、『基研案内』にあるように、理論研関連の科学活動が基研設立の主な源流の一つと考えられるからであり、さらに、これまで十分でなかった理論研の設置やその背景に対する分析を進展させることにあった。これらに関する調査・分析の結果、戦局悪化の進む1944年8月の理論研の設置はこれまで「異例」とされていたが、1944年を過ぎた時点でも、決戦体制に向けた科学動員において、軍事的応用を求める諸課題だけが最優先されたのではなく、軍事的応用研究に直結するとは一見思えない基礎研究を取り込んだ「数学・物理」分野の戦時研究課題が重視された傾向も見られたのであり、科学技術動員体制が激しく進行するなかだったからこそ、理論研のような研究所の設置が認められたとも考えられることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、平成25年度の実施内容は、(1)基研の歴代所長へのインタビュー、(2)湯川記念館史料室・坂田記念史料室・朝永記念室の所蔵史料の把握と当該史料の精査、(3)『素粒子論グループ事務局報』の内容調査、(4)湯川記念館・基研の関係者へのインタビュー、(5)日本学術会議・文部科学省関連資料の調査(6)California大学Santa Barbara校のKavli理論物理学研究所の調査などを主としていたが、平成24年度から(7)広島大学理論物理学研究所関連の史料の調査・分析を新たに加えるなどして、当初の計画とは変更点が生じ、(1)のインタビューなどをほとんど実施できなかった。そのため、「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の実施項目のうち、遅れている項目は歴代所長へのインタビューである。すでに、第6代所長の長岡洋介氏、第8代の九後太一氏にはインタビューを行う旨を伝えてあるので、それを実施したい。また、素論Gの初期の若手有力メンバーだった早川幸男氏のご子息の基研教授・早川尚男氏に対しても幸男氏や基研の歴史に関する聞き取りを実施できることになったので、それを行いたい。現在、本研究で大きな割合を占めている、三村剛昂と理論研に関する調査・分析については、素論Gと基研の歴史的分析と調和するようつとめる。平成26年度は本研究の最終年度であるため、国内、国外の学会で研究報告を行う。さらに、2011-2013年度 科学研究費補助金 基盤研究(A)「湯川・朝永・坂田記念史料から分析する日本の素粒子物理学者の系譜」(研究代表者 高岩義信、小長谷も協力研究員として参加)の成果も参考にする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた理由は、本研究の実施項目のうち、平成25年度に予定されていた基研の歴代所長へのインタビューがほとんど実施されなかったことにある。それは、平成24年度から広島大学理論物理学研究所関連の史料の調査・分析を新たな実施項目に加えて、平成25年度もそれへの実施に大きな時間が割かれたからである。 実施の遅れている、基研の歴代所長へのインタビューについては、すでに、第6代所長の長岡洋介氏、第8代の九後太一氏にはインタビューを行う旨を伝えてあり、それを予定どおり、実施したい。さらに、素論Gの初期の若手有力メンバーだった早川幸男氏のご子息の基研教授・早川尚男氏に対しても幸男氏や基研の歴史に関する聞き取りを実施することになっているため、それを行いたい。次年度使用額は、これらの一連のインタビューの実施、およびその整理・製本にかかる費用に使用される。
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Research Products
(7 results)