2012 Fiscal Year Research-status Report
下地調整技法からみた文化財学的漆工品の研究―中世の舶載及び国産漆器を中心にして―
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23501216
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Research Institution | Showa Women's University |
Principal Investigator |
武田 昭子 昭和女子大学, 人間文化学部, 教授 (50124326)
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Keywords | 中世大陸製漆器 / 中世列島内製造漆器 / 漆器塗膜構造 / 岩石・鉱物学的知見 |
Research Abstract |
本年度の岩石鉱物学的見地を加味した漆下地の文化財学的調査は、国内外で製作された2件について実施。 16世紀に比定される京都市山科本願寺跡出土炭化漆器片10点については、下地構成鉱物の上から花崗岩砕屑物を含む砂を混和、花崗岩砕屑物と火山灰または火山岩片を混和、および火成岩起源の砂状物質の3つに細分され、構成鉱物が近似する試料では同一器物あるいは同一地域で製作され、遺跡内にもたらされた可能性が高いことを示唆した。また、観察部位が異なるため塗膜断面構造結果からは関係を指摘することが困難であった試料が、構成鉱物に基づく分類結果から同一器物あるいは同一地域で製作された可能性を指摘し、炭化して情報が限定された漆器資料の製作技法研究でも本件の分析手法が有効であること示した。 大陸製漆器は東日本大震災で被災した明代製作とされる2点の彫漆器食籠を対象とし、うち1点の放射性炭素年代測定の結果、宋時代の値が得られ、様式研究より明代とされてきた今迄の見解に一石を投じる結果となった。製作技法は目視観察と実体顕微鏡観察、X線透過撮影による構造調査を行い、現在プレパラート作製が終了した。2件の食籠調査から、木地製作技法では、引き曲げ法が宋から明時代まで継承され、また宋時代では巻胎技法が箱物の素地製作まで及び、列島内の当時の技法とは一線を画す結果が得られた。 また、ウイーンで開催された国際保存修復学会での中世漆器製作技法に関するポスター発表では、岩石・鉱物学的見地を取り入れた本研究に、イタリアとイギリスの研究者から、一定の評価が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね順調に進んでいると言える。しかし、分析項目のうち、鉱物の粒度分布と年代測定調査が機器調整の都合で遅れている。粒度分布の機器は4月中に整備し、分析に取り掛かることとなっており、また、年代測定はなお引き続き担当者と連絡を取って、今年度の早い段階でデータが得られるように取り計らう。この2点の調査結果が出れば、また新たな検討要素が製作技法調査に加わり、漆器の分類・編年をより適切な方向へ導くことが可能になる。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度に実施した中世の大陸製彫漆器研究のなかで製作した下地塗膜プレパラートについて、偏光顕微鏡を含む光学的調査から鉱物と層構造を、EPMA分析およびFTIR分析から鉱物組成、有機成分等を明らかにし、未解明となっている大陸の中世彫漆器技法についての知見を得る。最終年度である本年は、これを基に、現在まで分析してきたデータを比較検討し、中世の舶載漆器と国産漆器の比較分類を試み、漆器編年構築へ導く。昨年度実施した国内漆器の研究成果は7月の国内学会で、大陸漆器の研究成果は、9月に実施される東アジア文化遺産学会で発表予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
舶載漆器塗膜の年代測定と、下地塗膜プレパラート調査、EPMA分析調査の費用が未払いのため生じた繰越金である。これらの調査を早急に実施し、研究目的を遂行していく予定である。
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Research Products
(3 results)