2011 Fiscal Year Research-status Report
動物園を舞台とした教育・啓蒙活動における専門的実践家の役割とその効果の解明
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23501226
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Research Institution | Sapporo City University |
Principal Investigator |
町田 佳世子 札幌市立大学, デザイン学部, 准教授 (40337051)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大西 奈美子 (河村 奈美子) 札幌市立大学, 看護学部, 助教 (50344560)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 動物園 / 飼育担当者 / 語り / 認識変容 / 効果検証 |
Research Abstract |
平成23年度は、動物園の教育・啓蒙活動の1つである飼育体験をフィールドとして、その活動に関わる専門的実践家としての飼育担当者と参加者を対象として合計7回の調査を実施した。7回の調査のうち、3回が大人を対象とした飼育体験、4回が子供を対象にした飼育体験であった。大人の参加者に対しては体験前後に自己報告式アンケートを実施し、体験後にはインタビューを行った。子供に対しては体験前後にアンケートを実施し、持ち帰った上で保護者の同意書とともに返送する方法を採用した。飼育担当者については、飼育体験実施時の発話をすべて録音した。アンケートは定量的分析、インタビューと発話はテープ起こしをした上で定性的分析を行った。 アンケートの結果からは、体験満足度が大人も子供も非常に高いこと、子供は飼育体験を通じて動物の能力の高さを実感していること、大人は動物園という環境についての印象が肯定的に変化することがわかった。インタビューの内容からは、飼育員と動物の関係に関する新たな認識の形成など様々な認識変化が生じていることが見いだせた。その要因を見出すために飼育担当者の体験中の語りを分析したところ、飼育担当者の語りは,参加者が体験前にいだいていた飼育員と動物との心通じ合う関係というイメージをくつがえす内容と、イメージどおりの担当動物へのいとおしさという対極的な2側面で構成されていた。既存認識の強化とくつがえしという語りの2面構造が、参加者の新たな認識、すなわち飼育担当者と動物の関係は「生態を知って距離をもっているからこそできる信頼関係」という認識の形成につながっていることが示唆された。 本研究で採用している方法論、すなわち参加者側の評価と担当者の語りの内容の両側面から効果とその要因を抽出する方法論が、市民参加型の教育活動の効果検証や成功要因の抽出方法として有効なモデルとなりうることも提示できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
協力動物園が実施している年間7回の飼育体験すべてで飼育体験中の飼育担当者の発話録音も含め、計画していた調査を実施することができた。飼育担当者の発話録音には1回につき6~8名の飼育担当者の協力を得ることができ、担当動物や経験年数も多様であったため質的に良好なデータを収集することができた。また持ち帰り後同意書とともに郵送とした子供を対象としたアンケートについても6割を超える回収率となったこと、大人を対象としたアンケートの回収率も9割を超えたことから量的解析が可能なデータ数に近づくことができた。それらのデータを分析・考察することにより、平成23年度の目的としていた、専門的実践者である飼育担当者の「媒介者」としての役割や機能を検討し、参加者に知識・態度の変容および感動や共感を引き出すプロセスを解明するための仮説形成が可能となった。平成24年度に向けて、それらの仮説検証に重点をおいた調査に着手する準備ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、アンケート調査の内容をこれまでの実態調査の内容から、仮説検証的な内容に発展的に変更して、引き続き協力動物園における飼育体験での調査を行う。量的解析に十分なデータ数を集めるため、平成25年度までの2年間をめどに実施する。動物園を含む博物館施設における教育・啓蒙活動は、展示そのものが教育・啓蒙活動の1つであると考え、平成24年度は調査対象を飼育体験に限定せず、展示の仕方や展示解説の内容、展示施設で行われる飼育担当者や学芸員の説明が来園者・来館者に引き起こす認識変容にも着目して新たな調査を実施する。 協力動物園での調査と並行して、平成23年度の協力動物園以外の動物園、水族館および博物館においても、展示方法、展示解説内容、参加体験型プロジェクトや活動で同様の調査を実施できるよう研究協力を依頼し、認識変容を引き起こす働きかけに関する仮説検証を進める。 また本研究での方法論である、参加者側の評価と担当者の働きかけの内容の両側面のデータをつきあわせながら効果を検証するという方法論が、市民参加型の教育活動における効果検証や成功要因の抽出方法としてのモデルとなるよう、国内外の動物園・水族館・博物館施設担当者や研究者との情報交換を行い協力を求めるとともに、多様な市民参加型の活動において適用しその有効性を検証していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
・今後の研究計画推進にかかわる調査実施のための経費として使用する。・収集するデータのうち、録音データについてはテープ起こしを行うため研究補助の謝金として使用する。・調査結果をまとめた報告書冊子作成の経費として使用する。・協力動物園以外の動物園・水族館・博物館との連携や情報交換、調査実施の打ち合わせのための旅費、および関連学会での成果発表のため旅費として使用する。 平成23年度は購入した品が当初の予定金額より安価となったため繰越金が発生した。平成24年度の調査対象日が当初予定より少し増える見通しであるため、その際の経費として使用する。
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