2011 Fiscal Year Research-status Report
古記録における天気ならびに植物季節的記述を用いた気候復元手法の確立
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23501247
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
青野 靖之 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (40231104)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 植物季節 / 気候復元 / 京都 / 太陽活動 / 文献史料 / 開花 / 紅葉 |
Research Abstract |
本研究では,平成23年度において,主として過去1200年間に京都において書かれた古記録に残された開花,紅葉などの植物季節現象の記録に関するデータの充実と,これによる長期的な気温推移の復元を行った。 春季のヤマザクラの満開日(花見などの記録に基づく)からは,3月の気温推移の復元を行った。既往の研究では特に西暦1200年以前のデータが少なく,気温推移を復元できなかった期間が残っていた。今回の史料調査を通して,新たに得られたヤマザクラの満開日データ,そしてフジやヤマブキなど他の植物の満開日データによるサクラの推定満開日などをあわせ,801~2011年の期間で合計823年分のデータを得るに至った。このデータに基づきあらためて気温の復元を行ったところ,西暦 890年代から現在にわたる連続的な春季の気温推移が初めて明らかとなった。西暦1200年以前の気温推移については,10世紀の春季気温は全般に現在より高いと見られたこと,11世紀の前半に気温が下降するなど9~11世紀の気温はかなり大きく変動していたこと,などが新たに分かった。また,西暦1300年以降については,主要な 4つの太陽活動の極小期にそれぞれ対応する寒冷な時代が,すべて数十年単位の遅れを以って現れることが明らかとなった。 一方,京都で書かれた古記録による紅葉に関する記録に基づく,10月の気温推移の復元も試みた。本研究では史料調査により得られたこうしたデータをカエデ属植物の紅葉日と見なした。史料調査の結果,西暦1300年以降を中心に約500年分のデータを収集するに至った。近代のデータを使った紅葉日から気温への読替方法の構築後,それ以前の気候復元を試みた。10月の気温の復元推移は,14~15世紀にかけての冷涼化の傾向や,19世紀前半の低温期の存在などを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヤマザクラの満開日による春季(3月)の気温復元は順調に進み,西暦890年以降の気温の推移を連続的に明らかにしたなど,新たな知見も得られた。現在,この結果をまとめたものを学術雑誌に投稿中であり,平成24年度前半に掲載の見込みである。カエデ属植物の紅葉日による気候復元については,解析に利用できるデータの数を予想以上に増やせず気温の復元が困難な時代(たとえば13世紀以前)も残るが,秋季の気温を復元する試みは既往の研究にもほとんどなく新規性があると思われることから,これについても学術雑誌に投稿すべく,結果を取りまとめているところである。 また,春季・秋季以外の気温復元に利用可能な植物について,検討を始めている。ただし,本年度においてはこうしたデータを未翻刻の古記録に基づく本格的な調査を行うには至っていない。また,天気記録などと植物季節現象の遅速との関係の解析についても,平成23年度では未着手である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度では以下の(1)~(3)を中心に研究を推進する。 (1)春季と秋季の気温復元結果を学術誌などで取りまとめ,研究結果の一般公開を順次進める。ヤマザクラの満開日による春季気温の復元については学術雑誌に投稿中である。また現在,研究結果をまとめているカエデの紅葉日による秋季気温の復元については,海外誌での発表を目標としている。 (2)京都と同様に17世紀以降に書かれた古記録が多い江戸(東京)についても同様の方法による気候復元を行い,復元結果の地域代表性を把握する。本年度には予備的に江戸(東京)について17世紀以降の春季気温の復元を京都と同様の方法で試みた。その結果,17世紀後半と19世紀はじめの太陽黒点の極小期に対応する低温期が,江戸においても京都と同様に認められ,またその発生時期(気温が最も低くなった年)も両地点でほぼ一致することが初めて明らかとなった。今年はさらに調査を進め,両地点における気温変化の特徴の類似点や相違点を明らかにしたい。 (3)春季と秋季以外の季節における気温の復元に利用可能な植物季節現象の検討と,それに関する史料収集を行う。とくに初夏~夏季の気候の指標になりうる植物季節現象に関する精査とデータ収集を考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の(1)に関連して,学術誌への投稿(投稿料や英文校閲など)や研究結果の公開(印刷費など)に関する支出を多めに考えている。また上記の(2)や(3)と関連して,日本各地に残る未翻刻の古記録調査に本格的に着手し,植物季節を用いた気候復元の可能性を深く追求したい。そのため調査旅費による支出を多めに考えている。また,気象学関連の学会のみならず,天文学・地球惑星科学(宇宙気候学)や地理学,歴史学など,さまざまな専門の研究発表の場で,研究成果の発表ならびに学術的な情報交換の機会も得たい。
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Research Products
(3 results)