2011 Fiscal Year Research-status Report
テストステロン曝露による前立腺エピゲノムの攪乱とその分子機構の解明
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23501263
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
山下 聡 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (80321876)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | DNAメチル化 / エピジェネティクス / テストステロン / 前立腺がん / ラット |
Research Abstract |
DNAメチル化異常は発がんに重要な役割を果たすが、慢性炎症以外に明確な誘発要因はわかっていない。特に、前立腺がんや乳がんなど慢性炎症の関与が乏しいとされるがんでの誘発要因は不明である。本研究では、テストステロン過剰状態がDNAメチル化異常を誘発することを実証し、テストステロン過剰状態によりDNAメチル化異常が誘発される機構を明らかにすることを目的とした。 初年度である本年度は、まず、3種類のラット前立腺がん細胞株(PLS10, PLS20, PLS30)の脱メチル化剤処理により発現が上昇する遺伝子をマイクロアレイで解析し、それらの中から、正常前立腺では非メチル化状態であるが、前立腺がんではメチル化されている遺伝子を合計5個(Aebp1, Amn1, Mmp23, Nkx3.1, Tgfbr2)同定した。オスF344ラットの皮下にテストステロンプロピオネートを充填したシリコンチューブを6週齢から5週間おきに埋め込むことによりテストステロンを投与、6、11、16、26、36、46、56の各週齢において前立腺、精巣、血液を採取した(各N=6)。同定した5個のマーカー遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態を、高感度・定量的なDNAメチル化解析法(Real-time MSP法)により、浸潤性のがんの発生母地となる前立腺背側葉において解析した結果、Amn1およびMmp23でDNAメチル化異常の増加が認められた(最大0.9%および2.5%)。 本研究により、DNAメチル化異常の誘発要因として、テストステロンが関与していることが初めて明らかになった。今後、テストステロン曝露によるエピゲノムの攪乱の予防という新たなコンセプトに基づくがん予防に発展する可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、(1) テストステロン過剰状態によりDNAメチル化異常が誘発される遺伝子の候補の同定、(2) テストステロン過剰状態のラット前立腺におけるDNAメチル化異常蓄積の解析、を行う計画であった。 (1)については、正常前立腺では非メチル化状態であるが、前立腺がんではメチル化されている遺伝子を5個以上同定する計画に対し、研究の結果、合計5個(Aebp1, Amn1, Mmp23, Nkx3.1, Tgfbr2)を同定した。 (2)については、オスF344ラットにテストステロンプロピオネートを充填したシリコンチューブを6週齢から5週間おきに埋め込むことによりテストステロンを投与、計画通り、6、11、16、26、36、46、56の各週齢において前立腺、精巣、血液を採取した。浸潤性のがんの発生母地となる前立腺背側葉におけるメチル化状態を解析した結果、計画通り、複数(2個)のマーカー遺伝子でDNAメチル化異常の増加が認められることを示すことができた。 以上の通り、研究は計画通りに順調に推移している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究が順調に推移しているため、計画に特に変更はない。これまでの研究でテストステロン過剰状態によるDNAメチル化異常誘発を示すことができたので、平成24年度以降はその機構の解析に進む。(1)メチル化標的遺伝子の転写レベルおよびヒストン修飾の変化、および(2)メチル化異常誘発の原因となる細胞外環境の変化について検討する。 (1)については、前立腺背側葉におけるメチル化標的遺伝子の転写レベル、およびメチル化領域のヒストン各種メチル化修飾のテストステロン投与前後の変化について解析する。DNAメチル化増加に先行する変化、あるいはDNAメチル化異常の程度と相関する変化を抽出することにより、DNAメチル化誘発に重要なヒストン各種メチル化修飾変化を明らかにする。さらに、テストステロン投与により、DNAメチル化異常に直接関与する遺伝子の発現変化が誘発される可能性について検証するため、メチル基転移酵素Dnmts、Ezh2などのポリコーム関連遺伝子などのテストステロン投与前後における発現変化について解析する。 (2)については、前立腺背側葉における病理解析および各種炎症細胞マーカー・各種炎症性サイトカインの発現解析を行う。テストステロン過剰状態に長期間曝露した前立腺背側葉において、炎症細胞浸潤あるいは慢性炎症に類似したサイトカイン等の発現増加が認められるか否かを明らかにする。このような現象が認められた場合、テストステロン過剰状態により前立腺において慢性炎症に類似した状態が誘導されて、DNAメチル化異常を誘発した可能性が高い。慢性炎症に類似した状態が誘導される過程を明らかにするために、テストステロン過剰状態に短期間曝露した前立腺背側葉における網羅的遺伝子発現解析を行う。発現上昇する遺伝子の中で、ケモカインなどの炎症細胞を誘引する機能をもつ遺伝子を検索することにより、重要な遺伝子の候補を抽出する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請した次年度の研究費(直接費)使用計画の内訳は、物品費700千円、旅費200千円、その他200千円である。本研究を遂行するにあたり、施設内の設備を有効に活用することができるため、設備備品費は必要ない。物品費の内訳は、遺伝子解析用試薬がほとんどで、他には分子生物学実験用の器具の購入に充てる。遺伝子解析用試薬としては、前立腺背側葉における遺伝子の転写レベルの解析に用いるマイクロアレイ、およびメチル化領域のヒストン各種メチル化修飾のテストステロン投与前後の変化について解析するためのChIP-リアルタイムPCRに用いる試薬が主となる。分子生物学実験用の器具としては、マイクロチューブやPCRチューブ・プレート、マイクロピペットのチップなどが挙げられる。旅費は、成果の発表および情報収集を目的として国内学会に合計3回参加するために用いる予定である。さらに、委託費、論文投稿料、論文印刷製本費用が必要なので、その他として計上した。
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