2012 Fiscal Year Research-status Report
テストステロン曝露による前立腺エピゲノムの攪乱とその分子機構の解明
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23501263
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
山下 聡 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (80321876)
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Keywords | 前立腺 / テストステロン / ラット / DNAメチル化 |
Research Abstract |
DNAメチル化異常は発がんに重要な役割を果たすが、慢性炎症以外に明確な誘発要因はわかっていない。特に、前立腺がんや乳がんなど慢性炎症の関与が乏しいとされるがんでの誘発要因は不明である。本研究では、テストステロン過剰状態がDNAメチル化異常を誘発することを実証し、テストステロン過剰状態によりDNAメチル化異常が誘発される機構を明らかにすることを目的とした。 昨年度までに、正常前立腺では非メチル化状態であるが、前立腺がんではメチル化されている遺伝子を合計5個(Aebp1, Amn1, Mmp23, Nkx3.1, Tgfbr2)同定した。テストステロンを皮下投与したオスF344ラットの前立腺背側葉において、同定した5個のマーカー遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態を解析した結果、Amn1およびMmp23のDNAメチル化異常の増加を認めた。 本年度は、テストステロン過剰状態によりDNAメチル化異常が誘発される機構の解析を進めた。メチル化標的遺伝子の転写レベルおよびメチル化領域のヒストン各種メチル化修飾のテストステロン投与前後の変化についての解析を行った結果、メチル化の誘発には標的遺伝子の発現が低いことが重要であることが示唆された。また、前立腺の病理解析および各種炎症細胞マーカー・各種炎症性サイトカインの発現解析を行った結果、テストステロン過剰状態により前立腺において慢性炎症に類似した状態が誘導され、DNAメチル化異常を誘発した可能性が強く示唆された。 本研究により、DNAメチル化異常の誘発要因として、テストステロンが関与していることが初めて明らかになり、炎症反応の関与が示唆された。今後、テストステロン曝露によるエピゲノムの攪乱の予防という新たなコンセプトに基づくがん予防に発展する可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度および25年度にかけて、テストステロン過剰状態によるDNAメチル化異常誘発機構の解析を行う計画であった。そのために本年度は、(1)メチル化標的遺伝子の転写レベルおよびメチル化領域のヒストン各種メチル化修飾のテストステロン投与前後の変化についての解析、(2)前立腺の病理解析および各種炎症細胞マーカー・各種炎症性サイトカインの発現解析、を行った。 (1)については、テストステロン投与によりメチル化が誘発された2個のマーカー遺伝子についてはテストステロン投与前における遺伝子発現が他のメチル化が誘発されなかったマーカー遺伝子に比べて低いことを明らかにした。また、各種DNAメチル基転移酵素の遺伝子発現を解析したところ、テストステロン投与による顕著な発現変動は認められないことを示した。ヒストン修飾の解析においては、H3K4me3およびH3K27me3の解析を行った結果、前立腺がんでメチル化異常が認められる5個のマーカー遺伝子においてはH3K27me3レベルが高いことを認めたものの、テストステロン投与による変動は特に認められなかった。以上の結果より、テストステロン過剰状態によるメチル化異常誘発には、標的遺伝子の転写レベルが重要であることが示唆された。 (2)については、テストステロン投与により経時的にリンパ球、好中球の浸潤が増加し、一部の炎症関連遺伝子 (Cxcl2, Il1b, Nos2 and Tnf)がメチル化レベルと並行して発現上昇することを明らかにした。慢性炎症は重要なメチル化誘導機構として知られており、テストステロン過剰状態により前立腺において慢性炎症に類似した状態が誘導され、DNAメチル化異常を誘発した可能性が強く示唆された。 以上の通り、研究は計画通りに順調に推移している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究が順調に推移しているため、計画に特に変更はない。これまでの研究でテストステロン過剰状態によるDNAメチル化異常誘発と炎症の関与を示すことができたので、平成25年度は、テストステロン過剰状態による炎症誘発機構について検討する。 細菌感染の有無、細胞増殖亢進の有無について検討するとともに、テストステロン過剰状態に短期間曝露した前立腺背側葉における網羅的遺伝子発現解析を行う。発現上昇する遺伝子の中で、ケモカインなどの炎症細胞を誘引する機能をもつ遺伝子を検索することにより、重要な遺伝子の候補を抽出する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請した次年度(最終年度)の研究費(直接費)使用計画の内訳は、物品費700千円、旅費200千円、その他200千円である。本研究を遂行するにあたり、施設内の設備を有効に活用することができるため、設備備品費は必要ない。物品費の内訳は、遺伝子解析用試薬と分子生物学実験用の器具の購入である。遺伝子解析用試薬としては、遺伝子発現レベルやヒストン各種メチル化修飾の解析に必要なプライマーやリアルタイムPCR用の試薬、核酸定量用の試薬などが挙げられる。分子生物学実験用の器具としては、マイクロチューブやPCRチューブ・プレート、マイクロピペットのチップなどが挙げられる。旅費は、成果の発表および情報収集を目的として国内学会に合計3回参加するために用いる予定である。さらに、委託費、論文投稿料、論文印刷製本費用が必要なので、その他として計上した。
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