2011 Fiscal Year Research-status Report
分子標的治療薬の新規薬力学評価法―非小細胞肺癌のがん性胸膜炎をモデルとして
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23501314
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
久保 昭仁 愛知医科大学, 医学部, 准教授 (60416245)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 非小細胞肺癌 / 癌性胸膜炎 / 分子標的治療 / 薬力学 / 薬物動態 / FDG-PET / 化学療法 |
Research Abstract |
本研究の目的は、非小細胞肺癌の癌性胸膜炎をモデルとする分子標的治療薬の薬力学評価系を確立することである。これまで非小細胞肺癌の癌性胸水および患者血液検体を用いて、分子標的治療における経時的な生体および腫瘍細胞の変化を解析し(薬力学)、同時に血液および胸水の薬物動態を評価してきた[PHarmacokinetic/PHarmacodynamic Assessment on Malignant Effusions (PHAME法)と命名]。癌性胸膜炎を合併した非小細胞肺癌患者20例を対象として上皮成長因子受容体(EGFR)阻害剤(ETKI)ゲフィチニブによる分子標的治療を行った(「ゲフィチニブ試験」; 臨床試験登録番号: UMIN00002953)。その結果、経時的な胸水・血液サンプリングが安全に実行できることが示された。ゲフィチニブ奏効例では、治療開始3時間で胸水中ゲフィチニブ濃度が治療域に達し胸水中がん細胞がアポトーシスを起こすこと、治療効果が持続する症例では血中および胸水中のゲフィチニブ濃度が早期に上昇する(分布が早い)ことが明らかとなった(論文執筆中)。「血液・胸水中の代謝物は臨床的イベントのバイオマーカーとなりうるか」をテーマとしてゲフィチニブ試験症例の経時的胸水・血液サンプルを用いてメタボローム解析を行った。ゲフィチニブ試験と同様の試験デザインにより新たなETKIエルロチニブによる臨床試験(エルロチニブ試験)が進行中である。分子標的治療の薬力学的評価法としてFDG-PETを導入し、従来の殺細胞性化学療法における薬力学的評価法との比較検討を行った(臨床試験登録番号: UMIN000006682)。非小細胞肺癌分子標的治療における薬力学マーカーとして著者らが長年研究を行ってきたサイトケラチン(CK)についても検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ゲフィチニブ試験は治療期間・観察期間を終了し、臨床解析および基礎解析を終えた。第一報となる論文を執筆中である。ゲフィチニブ試験の臨床検体を用いた2次解析となるメタボローム解析を探索的に実施した。キャピラリー電気泳動(CE)-TOF/質量分析(MS)によるメタボローム解析、SIMCA-P+による主成分分析、判別分析を行った。その結果、血液および胸水代謝物がゲフィチニブ薬物動態のバイオマーカーとなる可能性がある。更に確認実験を追加中である。分子標的治療の薬力学的評価法としてFDG-PETを用い、従来の殺細胞性化学療法における薬力学的評価法との比較検討を行った。進行非小細胞肺がん症例を対象に前向き臨床試験を実施し、分子標的治療としてETKI ゲフィチニブ(G療法、19例)、殺細胞性化学療法としてカルボプラチン+パクリタキセル併用療法(CP療法、19例)について解析を行った。その結果、殺細胞性CP療法よりも分子標的G療法において、早期(治療開始48時間後)のFDG-PETにおけるFDG集積低下がよりよく腫瘍縮小効果、腫瘍再増大までの期間(無増悪生存期間)、全生存期間と相関することが明らかとなった。2012年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)において成果発表と共に論文により成果を公表する予定である。非小細胞肺癌に高発現するCK8は、細胞浸潤を負に制御する一方で、血中CK8は予後不良マーカーである。CK8は薬力学マーカーとしても期待できる。エルロチニブ試験はひき続き症例登録および臨床情報収集を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
ゲフィチニブ試験については第一報となる論文を執筆中であり、早期採択を目指して努力する。ゲフィチニブ治療症例の経時的血液・胸水検体を用いたメタボローム解析を継続する。血液および胸水代謝物がゲフィチニブ薬物動態のバイオマーカーとなる可能性がある。バイオマーカーの候補代謝物の絞り込みと血清サンプルで得られた結果を血漿サンプルでも検討し、症例数を増やして実験結果の精度を上げる。薬力学研究の分子標的治療と従来の殺細胞性抗癌剤による化学療法との違いについてFDG-PETを用いた薬力学的評価法において検討した。治療開始後の腫瘍組織におけるFDG集積低下は画像診断における腫瘍縮小よりもずっと早く、この変化は殺細胞性化学療法よりもETKI治療においてより顕著であった。本研究においても論文の早期完成・早期採択を目指す。近年新たな非小細胞肺癌の発癌過程におけるdriver mutationとしてALK遺伝子が転座により融合遺伝子として活性化することが報告された。ALKの選択的阻害剤クリゾチニブが開発され本年保険適応となる見込みである。ALK陽性肺癌は非小細胞肺癌全体の5%以下と少数ではあるが、クリゾチニブに対してもゲフィチニブ・エルロチニブ試験と同様に薬物動態・薬力学研究を含めた臨床試験(クリゾチニブ試験)を開始予定である。エルロチニブ試験は症例登録が遅れている。症例集積が進みにくい原因について調査したところ、登録遅滞の最大要因は、エルロチニブが進行肺癌の初回治療に使用できない(保険承認が得られていない)点にあることが明らかとなった。症例集積促進のために試験実施施設(愛知医科大学および国立病院機構近畿中央胸部疾患センター)において、本試験実施および進捗状況についての情報提供を頻回に行い、より積極的な試験参加を求め、各担当医への意識付けを徹底する方針である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ゲフィチニブ試験とメタボローム解析についての論文完成とその成果発表を行う。そのための費用を計上した(国内外学会・研究会旅費等、合計70万円;情報収集のための学会・研究会等参加費、書籍、論文校正と掲載料等合計20万円)。エルロチニブ試験の症例登録を完了させ、血液・胸水検体を用いて薬物動態解析(70万円)、網羅的遺伝子発現(cDNAマイクロアレイ)解析(50万円)、免疫染色、ELISA解析、アポトーシスアッセイ(計40万円)を実施する。ゲフィチニブ試験とエルロチニブ試験の統合解析を行う(ミーティング費用・消耗品・謝金等合計30万円)。クリゾチニブ試験を開始する(ミーティング・情報収集等のための旅費・会議等諸費用20万円)。
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Research Products
(3 results)