2012 Fiscal Year Research-status Report
ゲノム網羅的関連解析により導かれた胃がん発生抑制分子経路の解明とその創薬への応用
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23501327
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
佐伯 宣久 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 主任研究員 (80466200)
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Keywords | がん抑制分子経路 |
Research Abstract |
PSCAはゲノム網羅的関連解析により胃がんの易罹患性に関わる遺伝子として同定され、機能解析の結果、胃上皮細胞において胃がんの発生を抑制する機能を持つことが示唆された。本研究はPSCA分子経路の機能を強化することによる胃がん予防法の開発をめざすものである。具体的には、①PSCA遺伝子の発現制御分子経路の解明、②PSCAタンパクのリガンドの同定、③PSCAシグナル伝達経路の解明、④マウスの胃におけるPSCA分子経路の機能を高める方法の開発、を行う。 胃がん培養細胞株を用いたレポーターアッセイによりPSCA遺伝子の上流に発現調節領域を同定し、この発現調節領域の塩基配列について既知の転写因子結合配列を検索し、結合する転写因子候補を15種リストアップした。平成24年度においては、これらの転写因子に対する抗体を用いてゲルシフトアッセイを行ったが、すべての抗体についてシフトは見られず、in vitroで発現調節領域に結合する転写因子の同定にはいたらなかった。また、転写因子結合配列に変異を加えてレポーターアッセイを行ったが、変異の影響は見られなかった。以上より、結合配列が知られていない、あるいは特定の結合配列を持たない転写因子がこの発現調節領域に作用している可能性が示唆された。また、PSCAにFLAGタグを付加した融合タンパク(FLAG-PSCA)を発現する発現ベクターを胃がん由来培養細胞株に導入し、その細胞溶解液について抗FLAG抗体を用いて免疫沈降を行ったところ、特異的な共沈タンパクは得られなかった。そこで培養細胞を架橋剤で処理したところ、FLAG-PSCA本来の分子量よりも大きい分子(複合体)がウェスタンブロットで確認された。現在、この分子(複合体)の精製を試みている。 また、PSCAの持つがん抑制機能を解析する一環として他の組織での発現解析や他のがん由来の培養細胞での解析を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成24年度末までに、1)レポーターアッセイによりPSCAの発現に重要な発現調節領域を同定し、この発現調節領域にin vitroで結合する転写因子を同定することなどにより、PSCA遺伝子の発現調節分子経路を明らかにする、2)免疫沈降法などによりPSCA結合タンパクを精製し同定することにより、膜タンパクであるPSCAのリガンドあるいはPSCAタンパクがシグナル伝達において作用する分子を同定し、PSCA細胞内シグナル伝達分子経路を明らかにする、ことを予定していた。 1)については、発現調節領域を同定したものの、この領域に結合して作用する転写因子の同定にはいたらなかった。 2)についてはPSCAにFLAGタグを付加した融合タンパク(FLAG-PSCA)を胃がん由来培養細胞株に導入し、架橋剤で処理後に抗FLAG抗体を用いて免疫沈降を行った実験結果から、何らかの共沈する分子が存在することが示された。現在、質量分析にかけるためにこの分子の精製を試みているが、分子経路の同定までには至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
PSCA遺伝子の発現調節領域は同定できたものの、この領域に結合して作用する転写因子の同定にはいたらなかったことから、PSCA遺伝子の発現調節分子経路の解明は一時中止して解析手法を検討することとし、25年度はPSCAが機能する細胞内シグナル伝達経路を明らかにすることに目標を絞る。 まず、免疫沈降法によるPSCA結合タンパクの同定を継続する。培養細胞を架橋剤で処理した後、培養細胞で発現させたFLAG-PSCA融合タンパクを抗FLAG抗体を用いて免疫沈降する実験によって、PSCAと共沈する分子が存在することが示されたことから、このPSCAタンパク―架橋分子複合体の精製を試みる。共沈サンプルを2次元電気泳動により展開した後、抗FLAG抗体を用いたウェスタンブロットにより複合体スポットを検出し、銀染色したゲルからこれと対応するスポットを回収して質量分析にかけてタンパクの種類を同定する。ここで得られたPSCA結合分子から細胞内シグナル伝達経路を推測し、培養細胞を用いた実験(タンパク修飾や遺伝子発現解析)によりその経路を確認する。培養細胞を用いてPSCAシグナル伝達経路を活性化させることができる因子について考察する また、PSCAを発現していない培養細胞にPSCA発現ベクターを導入・発現させ、それに伴って生じる発現遺伝子群の変化やリン酸化されるタンパク群の変化を、トランスクリプトームやプロテオームの手法を用いて捉え、PSCAが関わる細胞内シグナル伝達経路を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の所要額については、実験に必要な試薬・消耗器具や細胞培養用試薬、質量分析の外部委託に要する経費に充てる予定である。
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