2011 Fiscal Year Research-status Report
気候変動がアジアパシフィック域の水産養殖業に与える影響
Project/Area Number |
23510044
|
Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
吉松 隆夫 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (10264102)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 気候変動 / 水産生物 / 水産増養殖 / 海洋酸性化 / 二酸化炭素 / アジア / 太平洋 / pH |
Research Abstract |
気候変動がアジアパシフィック域の水産養殖業に与える影響について検討することを目的に,初年度の平成23年度に国内,国外各二回の予備的な現地調査を実施した。その結果,豪雨による急激な水温変化や表面海水の塩分低下,また長期化,激化する低気圧による荒天の影響等,共通するいくつかの解決すべき問題点が明らかとなったが,それらとは別に,漁民や養殖業者の目には直接触れない現象として海洋酸性化の問題がある。そこで先ずはこの海洋酸性化の影響を調査する目的で,下記の実験室規模の予備実験を併せて行った。 人類の活動による大気中のCO2の増加は様々な気候変動を引き起こすが,近年増加した大気中のCO2が海水に溶け込むことによって海水が酸性化し,海洋生態系に様々な影響を与える危険性が指摘されている。しかし,その影響評価としてのデータは,強酸を用いたものが多く,酸性化の原因となっているCO2そのものを用いたものはまだ少ない。そこで本研究では同一pH条件下で強酸とCO2の毒性を比較するため,アルテミア卵の孵化率,アルテミア及びメガイアワビ幼生における死亡率を測定した。 本年度実施した実験の結果,アルテミア卵の孵化率,アルテミア幼生の死亡率はpH 7.0程度に設定した低酸性区では対照区との差はなかった。pH 6.0程度に設定した高酸性区では,卵の孵化率は塩酸区に比べてCO2区の方が低下する傾向が見られたのに対し,幼生の死亡率はCO2区に比べて塩酸区の方が有意に高くなった。メガイアワビ幼生はpHが低下するに従って死亡率が増加したが,低酸性区,高酸性区のいずれにおいても塩酸区とCO2区の間に有意な差は見られなかった。 次年度以降は,今回の予備実験の結果をもとに海洋酸性化の問題をさらに詳細に検討し,その実験結果を伴って更なる現地調査を実施し,複合的な気候変動の影響を明らかにしてその対策を考えてゆく予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は現地調査と現地および日本国内での予備的な諸実験の実施を中心に構成される。調査研究対象となっている国は日本とも関係が深いアジアパシフィック域のインド,タイ,インドネシアおよびフィジーの4ケ国である。調査対象としたこれらの国々は水産養殖業が産業上の重要な位置を占めており(あるいは今後占める可能性があり),かつその生産物がコモディティとして国内外に大量に流通し販売されている。さらにこれらの国々は,研究代表が所属する三重大学大学院生物資源学研究科が国際協力を今後強力に推進してゆく計画の対象地域の国々である。それらの国々は,今回主たる調査対象とする養殖形態や養殖生物以外にもさまざまな対象種を有しているが,本研究ではあらかじめ選定したいくつかの調査対象種に着目し,詳細な現地調査と予備的実験を実施することとなる。 初年度は現地での予備調査と予備実験を主に実施した。現地調査は海外についてはフィジーおよびインドネシア,また国内の状況と比較するために新潟県小千谷市と三重県志摩市の淡水および海水の種苗生産施設を訪問し聞き取り調査を行った。 以上,平成23年度は初年度ということもあり次年度以降の研究推進に必要な基礎情報を売ることが当初の目標であったので,おおよそ初年度の計画は達成されたといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画としては,養殖量の変化,産卵時期の変化,飼餌料確保への影響,種苗生産時期への影響,餌料生物培養への影響,病害症の発生への影響,およびこれらに対する現地レベルでの対応状況の調査を現地調査を中心に実施する。 またこれらの情報から今後いかなる研究が求められるかを科学的根拠に基づき案出し,現地の研究者と共同で予備的な実験を実施して実行可能な対応策の可能性調査を引き続き行う。 初年度の現地調査の結果いくつかの解決すべき共通する問題の存在が明らかとなったが,またまったく現地の人々が気づいていない問題の存在も同時に明らかとなった。すなわち海洋酸性化の問題である。特に環境に関する問題は人々が気が付かぬ間に少しずつことが進行し,あるレベルを超えると一気に問題が顕在化するケースが多い。そこで本年度は現地の人々がまだ問題としてはとらえていない,あるいはとらえにくいこの海洋酸性化の問題について,初年度の実験室レベルの予備実験で得られたを携えて,あらためて第二年度の現地調査に入り,気候変動が水産養殖業に与える影響について明らかにしてゆきたいと思っている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
第二年度は研究費として900,000円の直接予算を計上している。初年度は現地調査にための出張旅費がかなりの割合を占める結果となったが,次年度は現地調査と実験室実験の予算の割合の均等化を図り,現地および日本国内での実験室実験を増やしてゆく予定である。 海外での現地調査地としては,初年度にフィジーとインドネシアについて実施したので,第二年度は残りのインドおよびタイについて実施し,また多様な水産養殖業形態を持つインドネシアについても再度実施する予定である。またこれらに併せて国内での現状視察と対策方法の調査を実施する。 実験室実験としては初年度実施した海洋酸性化に関する実験室実験を継続,発展させるとともに,初年度の現地調査で得られた情報を解析し,いくつかの問題(例えば降雨による表面海水温度の急変の問題や塩分低下の問題等)についてその解決のための予備試験を実施する。これらの実験室での諸実験のための試薬,消耗品等を中心にした支出を計画している。 また初年度,および第二年度の研究成果をまとめ,学会,研究会等での発表を行う予定で,このための予算も準備している。
|