2012 Fiscal Year Research-status Report
気候変動がアジアパシフィック域の水産養殖業に与える影響
Project/Area Number |
23510044
|
Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
吉松 隆夫 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (10264102)
|
Keywords | アジア / 太平洋域 |
Research Abstract |
前年度までにアジアパシフィック域で行った調査結果,および平成24年度に実施したフィジー共和国での調査結果,さらには国際・国内学会や各種研究会で行った情報収集,研究者との意見交換の結果,下記に二点について特に詳細な追加調査を実施し,また実験室実験を行うことで,現象とその影響の関係を明らかにすることが急務と判断された。 1.気候変動の影響による沿岸生物の生息攪乱の問題:(実施題目)三重県内におけるサンゴの分布および北上調査:三重県南部で調査を実施したところ,クシハダミドリイシと思われる個体を含むミドリイシ属サンゴやウミバラ,シコロサンゴなどが,また藻場の優占する志摩市でもキクメイシ科のサンゴが分布していることが確認された。本調査結果はクシハダミドリイシの分布の北限が,従来から言われている串本から三重県側に北上していることを示唆しているおり,気候変動の影響が強く示唆された。(本研究成果の一部は平成24年度日本サンゴ礁学会で発表) 2.気候変動により引き起こされる局地的豪雨の影響:(実施題目)急激な塩分低下と回復が沿岸生成物の初期生残や形態形成異常に与える影響:沿岸岩礁帯に生息するメガイアワビ孵化幼生を用いて実験を行った。豪雨により3時間で塩分が低下し,その後3時間若しくは6時間で塩分が回復するという想定で実験を行い,幼生の生残率と形態異常出現率について,塩分操作直後と操作終了から12時間後の2回,実態顕微鏡下で観察,計数した。その結果,メガイアワビは,3時間で塩分が回復する実験区で塩分操作直後において低下する塩分差が大きいほど生残率が顕著に低くなった。12時間後の観察では,有意差はなかったものの塩分低下に伴って生残率も低下する傾向が認められた。形態異常出現率については,いずれの実験区でも塩分の低下に伴って増加し,局地的豪雨が沿岸生物に影響を与える可能性が強く示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
地球環境問題が生物に与える影響に関する研究は,近年でも未だ情報量が少ない。そこで,水産養殖業が重要な産業であり日本とも繋がりの大きいアジアおよび太平洋域を調査地点に選び,気候変動の諸現象が水産増養殖業に与える影響を先ずは現地調査した。初年度はタイ,インドネシア,およびフィジー等,2年度はフィジーを基礎的な調査地点に選び,先ずは現地の研究機関と詳細な現地調査を実施した。そして影響の大きい問題であり,かつ現在まであまりその評価が行われてこなかった問題,原因を抽出し,それらについて実験室の実験でその影響について詳細に検討した。その結果,現在までに以下のような結果が得られ,これまでのところほぼ初期の目標を達成しつつある。 最近頻発する地球環境問題である海水温の上昇や海洋酸性化,あるいは局地的な豪雨は,海域において海水環境を大きく変化させそこに住む海産生物の生殖や生態,あるいは増殖,ひいては資源量等にも大きな影響を与える。海水温の上昇はそこに住む海産生物の相を変化させ,また移動手段を持たない固着生物などは不適な生息環境下に止まることを強いられ影響が大きい。海洋の酸性化については平成23年度に研究手法についての集中的な研究を実施し,正しい研究手法と実験設定で正しく影響を評価することの必要性と重要性を喚起した(平成24年度日本水産学会秋季大会にて発表)。またもう一つの重要な問題である水棲生物と塩分変化に関しては,これまで断片的ないくつかの知見があるが,自然状態で起こる急激な塩分の低下とその後の回復を想定した研究についてはこれまでほとんど前例がないことが判明した。そのために平成24年度はその影響を実験室実験により検討し素晴らしい成果が得られた。さらには海水温の変化と沿岸域の生物相の変化についてもこれまでに報告のないいくつかの新知見が得られ,学問的にも産業的にもその意義は大きい。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は本助成研究の最終年度に当たりこれまでの成果の論文による公表と,当初計画していたが現在まで調査が実施されていない地域や内容での研究項目の実施を予定,計画している。なお申請時の計画書には以下のように記しており,平成25年度はこれらの事柄のうち,未実施の項目の実施と研究成果の取りまとめを先ずは実施する予定である。特にインドに関しては現在まで全く未着手であるので早急な実施を予定している。研究成果の公表に関してはこれまで何度かの学会での発表は行っているがまだ学術的な原著論文を纏めるまでには行っていない。現在鋭意準備中であるが,可及的速やかに公表ができるよう準備を進めてゆく計画である。 アジアパシフィックのそれぞれの国における主たる調査対象養殖と対象種 1.インド 内水面養殖(淡水魚類:コイ科魚類,ナマズ類),海水・汽水養殖(甲殻類:エビ類),2.タイ 内水面養殖(甲殻類:オニテナガエビ,淡水魚類:ティラピア類),海水・汽水養殖(海産魚類:ハタ科魚類,甲殻類:エビ類),3.インドネシア 海水・汽水養殖(甲殻類:エビ類),海面養殖(海産魚類:ハタ科魚類),4.フィジー 内水面養殖(甲殻類:オニテナガエビ,淡水魚類:ティラピア類),海面養殖(海藻類:キリンサイ) 主たる影響の調査項目:養殖量の変化,産卵時期の変化,飼餌料確保への影響,種苗生産時期への影響,餌料生物培養への影響,病害症の発生への影響,およびこれらに対する現地レベルでの対応。またこれらの情報から,今後いかなる研究が求められるかを科学的根拠に基づき推定し,現地の研究者と共同で予備的な実験を実施して実行可能な対応策の可能性調査を引き続き行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
最終年度の予算は間接経費を含めて130万円であり,これに大学から教員個々人に準備されている交付金からの一般研究費を加えて本助成研究の当初の目標が達せられるよう計画的に支弁してゆく予定である。おおよその研究費の使用計画を下に記す。 海外現地調査(インドその他)の実施費用:40万円:当初調査地としてインドを予定していたが研究に協力してくれる大学所属のインド人研究者が平成24年度に海外に転勤したため今代わりの研究者を照会中である。状況によっては同じ南アジアの国であり,養殖事情もインドに近似しているバングラデシュに変更する可能性もある。国内の調査および学会での研究発表にかかわる経費:20万円:海水温の変動と沿岸生物の生息に関して野外調査の結果非常に興味ある結果が平成24年度得られた。引き続きこの点に関しても調査研究を継続してゆく。実験のための試薬,消耗品購入費:30万円:海産生物の飼育実験に必要な実験機器類や試薬,培養飼育餌料代等。報告書等作成費,論文作成関係費,その他の雑費:10万円:最終年度であるので最終報告書の取り纏めと印刷を考えている。また論文の執筆も進めており英語校閲や印刷経費の負担等が必要となる。間接経費:30万円
|