2012 Fiscal Year Research-status Report
温暖化被害緩和策に関する世界経済モデルによるシミュレーション分析
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23510052
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
鷲田 豊明 上智大学, その他の研究科, 教授 (50191739)
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Keywords | 気候変動 / 適応 / 熱帯サイクロン / 応用一般均衡モデル / 生物多様性 / 統合評価モデル |
Research Abstract |
平成24年度は、前年度に実施した気候変動が熱帯サイクロンにもたらす影響に関する調査に基づき、地域間貿易を含む世界経済モデルと気候変動モデルを一体化した統合評価モデルEMEDAにサイクロン影響を組み込み、シミュレーションを実行した。この準備のために、平成24年6月に、ニューヨーク州立大学経済学部のZili Yang 教授を招いて研究セミナーを実施した。Yang教授は、William D. Nordhaus教授とともに地球温暖化に関わる代表的な気候経済統合モデルであるDICEモデル、RICEモデルの開発行い、特に、近年は地域分割されたRICEモデルを用いて、気候変動に関わる世界の状況をシミュレーションしている。 EMEDAは、経済部門は、世界を16地域、各地域の産業を16産業に分類し、相互の貿易も組み込んだ大規模な静学的モデルである。EMEDAへのサイクロン被害の組み込みに際しては、Narita(2009)らによる直接被害の推計関数を応用し、さらに日本およびフィリピンに置ける農業部門、工業部門などへの被害を基礎に行った。 シミュレーション結果では、特に、各地域、各産業における直接的被害が世界市場の機能によって、有意に緩和されることを発見できたことが重要であった。たとえば、農業分野のサイクロン被害について、日本の場合、1度から4度上昇の間のいずれの場合も、直接的被害水準以下に緩和され、アメリカや東南アジアにおいても同様の傾向が確認されている。 これらの結果を、"Computable General Equilibrium Analyses of Global Economic Impacts and Adaptation for Climate Change: The Case of Tropical Cyclones"という論文にまとめ温暖化関係の国際研究雑誌に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、温暖化被害に対する影響の緩和策について、気候変動メカニズムを組み込んだ世界経済モデルを構築し、被害の緩和メカニズムを解明することを目的としていた。そのために、現在の研究状況について把握するとともに、モデルの構築、被害関数の組み込み、シミュレーションの実施、政策的含意の導出を具体的な研究計画として掲げてきた。 これをもとに評価すると、温暖化の適応策に関する研究者からのヒアリングについて、平成23年度および平成24年度と、国際セミナー、国際ワークショップを合計3回含む形で実施し、世界的な研究の流れを把握できている。また、モデルもほぼ予定通りの規模、予定のシミュレーションが可能な形で構築することができた。モデルの経済部分は、世界的な応用一般均衡モデルとなっていて、精密な構築作業が必要になっているが、無事に終了することができている。温暖化被害の組み込みについては、現状は、気候変動による熱帯サイクロンの影響にとどまっているが、世界的な研究の水準をふまえた構造を確定できている。これに基づく、シミュレーションについては、従来の研究では特に注目されてこなかった、経済システムそれ自身が緩和機能を持っていることを明らかにできている。 政策的含意については、今後とも深められるべきだが、現状でも、今後の気候変動の影響緩和のためには、世界市場が効率的に機能することの必要性を明らかにするものとなっている。 これらの研究の進展が、適切な水準を持っていることは、研究をまとめた論文の投稿について、現在査読に対する返答を書いている状況の中でも審査員の好評価にあらわれていると考えている。 過去2年の研究は、当初予定していた全ての展にわたって一定の成果を上げているところから、おおむね順調に進展しているという結論が妥当だと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究は、当初予定していた研究の大きな流れのすべてを実現しているものとなっているが、気候変動の影響について、それに伴う熱帯サイクロン(台風を含む)によるものにとどまっている。この領域では、すでに研究はまとまっているが、それ以外の気候変動影響について、本研究がどのように展開されるべきかを最終年度はより明確にすべきである。特に現在注目されている課題は、気候変動の生物多様性への影響の分析が上げられる。問題としては大きいが、これまで、経済と気候変動の統合評価モデルで、詳細に分析された研究は少ない。生物多様性の経済影響については、(1)多様性の経済評価の視点からのアプローチ(2)ABS(遺伝資源の利用をめぐる利益の配分)の視点からのアプローチの二つが考えられるが、研究としては後者を検討する。特に、遺伝資源が経済にどのような利益を現状で与えているのかを分析し、温暖化によってそのような産業的利益がどのように影響を受ける可能性があるのかを定量化し、それをEMEDAに組み込むことによって、熱帯サイクロンの場合と同様に、経済システムそれ自身による緩和可能性、あるいは、これまで十分な推計例がない、経済への影響の規模、あるいは、産業的地域的影響の違いなどを分析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度については、第一に、すでに得られている成果を学会、研究会の場で披露し、より洗練された結果とするために、多くの研究者からの意見、評価をもらう、第二に、今後の研究の推進策にも書いたように、新たな温暖化をめぐる被害についてモデルに組み込むために、追加的な情報の獲得、研究者へのヒアリング、研究ワークショップの開催を行う、第三に、これまでの研究全体の成果報告をまとめることが主要な課題となる。そのために、国内、国際的な研究会への旅費の支出、正平研究者への旅費支出、研究データ収集・整理のための謝金、研究成果発表ための印刷費、研究の基本情報を得るための図書費等が必要となる。
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Research Products
(1 results)