2012 Fiscal Year Research-status Report
化学的ストレスによる細胞死に於ける亜鉛イオンの毒性科学的役割について
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23510078
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
小山 保夫 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 教授 (80214229)
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Keywords | 国際情報交換 |
Research Abstract |
1.膜イオン透過性に影響を与える局所麻酔薬リドカインとプロカインでは細胞内亜鉛イオン濃度に与える影響が逆であった。 2.脂溶性亜鉛キレート剤のクリオキノールはアルツハイマー病原因物質であるアミロイド蛋白の構造を変化させて認知症症状を改善することが考えられている。脂溶性ということを考えると細胞膜を透過して細胞内亜鉛オン濃度にも影響を与えると予想された。クリオキノールは細胞外亜鉛イオン存在下では細胞内亜鉛イオン濃度を上昇させ、亜鉛イオン除去条件下では減少させることが明らかになった。さらに、酸化ストレスを受けた細胞ではベル型に細胞死を増加させた。亜鉛イオンをキレートする化学物質では細胞外の亜鉛イオン濃度に依存して細胞内亜鉛イオン濃度を変化させる可能性が示唆された。 3.亜鉛サプリメントのポラプレジンクは細胞内亜鉛イオン濃度を上昇させ、非タンパクチオール量を増加させた。この作用は同じ濃度の塩化亜鉛でも再現され、ポラプレジンク特有の作用ではなかった。 4.シャンプー等のヘルスケア製品に含まれる抗菌剤トリクロカルバンはヒト血液中で検出されるが、血中濃度レベルで細胞内亜鉛イオン濃度を上昇させることが明らかになった。トリクロカルバンでは細胞内非タンパクチオール量は一時的に減少するが、時間依存性に回復した。しかしながら、亜鉛キレート剤処理や低温処理では、時間依存性の細胞内非タンパクチオール量の回復は観察されなかった。これらの結果から、トリクロカルバンによる酸化ストレスが細胞内非タンパクチオールから亜鉛イオン遊離を促し、その亜鉛イオン濃度増加が非タンパクチオール量の回復を誘発すると推定された。 5.トリクロカルバンは細胞の酸化ストレスに対する脆弱性を亢進することを明らかにした。イットリウムイオンが温度感受性の亜鉛イオン膜透過性を抑制することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.「化学物質の細胞毒性への亜鉛イオンの関与」について 「化学的ストレスが起こした細胞内非チオール量の減少→チオールから亜鉛イオン遊離→細胞内亜鉛イオン濃度上昇(→酸化ストレスによる細胞死プロセス亢進)」に加えて、「細胞内亜鉛イオン濃度の持続的上昇が細胞内非タンパクチオール量回復(細胞保護)に繋がること」が明らかになり、化学物質の細胞毒性への亜鉛イオンの関与には濃度に応じて二つの側面があることが分かった。この項目については予想を超えて時間を要し、細胞の画像解析までは進んでいない。(80%達成) 2.「亜鉛イオンとキレート作用を有する化学物質の作用」について 亜鉛イオンキレート作用を有するクリオキノール(アルツハイマー病治療薬)は脂溶性であり、細胞膜を透過する。この化合物は臨床濃度で細胞内亜鉛イオン濃度を上昇させ、酸化ストレスに対する細胞の脆弱性をベル型に亢進することが明らかになった。化学物質の細胞毒性に亜鉛イオンが関与することは間違いないが、化学物質の物理化学的性質の違いが亜鉛イオンと細胞毒性との関係を複雑にしている。この他に環境汚染物質となっているトリクロカルバン(ヘルスケア製品に含まれる抗菌剤)が皮膚からの吸収レベル(シャワー中の血中レベル)で細胞内亜鉛イオン濃度上昇、酸化ストレスに対する細胞脆弱性の亢進を起こすことを見出している。(90%達成) 3.「亜鉛イオン輸送体の薬理学的特性の解析」について この研究項目では達成率は50%である。原因の一つに細胞内非タンパクチオール量の低下に伴う亜鉛イオン遊離という「亜鉛イオン輸送体とは関係しないメカニズム」が多くの化学物質で認められたことにある。細胞外亜鉛イオン取り込みについては簡便な評価方法を有しているので、平成25年度に明らかにする予定としている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.平成25年度の項目を前倒しで行った為に、平成24年度の計画の進展が一部遅延している。「細胞内亜鉛イオン動態の画像化」については他の研究項目の進展次第では断念する可能性があるが、波長の長い(赤色蛍光)のチオール染色色素が市販されたら、早急に実施する。化学物質の細胞毒性における「細胞内小器官と細胞内亜鉛イオン動態の関連性」については、薬理学的手法などを用いて解析を行い、実質的情報量の面では何ら問題はない。 2.平成25年度の項目である特定化学物質については、一部を前倒しで行っており、有機金属化合物、難分解性化学物質を中心に、細胞毒性と亜鉛イオンの関連性・メカニズムを明らかにする。現在、ディルドリンについては論文を投稿中で、今後、界面活性剤、抗菌剤など環境汚染物質になる可能性が高い化学物質についても研究を進める。 3.化学物質による細胞毒性の結果としての「細胞死」の種類の解析も行う。現時点ではアポトーシス的形態変化を伴うネクローシスとしか表現できないが、特定の細胞死タイプではなく、複合した細胞死のタイプ(亜鉛イオン依存性細胞死)として研究を進展させる。 4.化学物質の細胞毒性ではカルシウムイオンと結びつけたメカニズムが多い。しかし、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇をカルシウム蛍光色素で検出する場合、亜鉛イオンが蛍光色素との親和性が高い。見かけ上はカルシウムイオン濃度の上昇でも実際は亜鉛イオン濃度の上昇で区別が付かない。本研究で用いている胸腺細胞は細胞内カルシウムイオン濃度上昇で過分極反応が起こる。それを指標に実験を行うと、亜鉛イオン濃度上昇との区別が可能と考えられ、研究の新たな展開になる可能性が高い。実際、化学物質によっては亜鉛イオン濃度上昇がより低い濃度で起こっている。この点を明らかにすることで化学物質の細胞毒性研究では新たな展開が期待できる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.繰り越し研究費が生じた状況 23年度の繰り越し分で24年度の研究経費の総額が増えたことで再度繰り越しが起こった。また、実験システムに無駄が出ないように改善を続けているので、試薬の中では高額の蛍光プローブ等の消耗品経費が抑えられた。実績にも示すように6編以上の論文を出しており、ネガティブな要因(例えば、研究の遅延等)がもたらした繰り越しではない。 2.25年度の請求研究費と合わせた使用計画 繰越額の約58%を「物品費」に、約27%を「旅費」(主に他大学での電気生理学実験の為/亜鉛イオンの膜透過性に関係する研究)、残りを実験補助の「謝金」と論文の英文校正の為に「その他」に振り分ける。主要研究機器のフローサイトメーターは25年度から2台稼働体制(別予算で1台を新規導入)となり、蛍光プローブ等の試薬・消耗品の利用量も2倍となる。よって、科学研究費以外の経費による穴埋めが必要になる。 3.25年度の支出予定内訳(24年度の残額826千円の費目別の支出予定)は以下のようになる。「物品費」480千円、「旅費」220千円、「謝金」100千円、「その他」26千円となる。物品費ではフローサイトメーターの2台稼働で周辺機器(恒温ドライバスなど)の整備が必要である。実験システムの効率化で、6編以上の研究論文の報告が可能と考えている。また、さらなる研究展開に向けた基礎データの蓄積も進んでおり、これらの数値目標の達成はある。
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Research Products
(7 results)