2012 Fiscal Year Research-status Report
ヒ素化合物によるヒストン修飾の多様性とその意義の解明
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23510082
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
鈴木 俊英 帝京大学, 薬学部, 准教授 (60256055)
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Keywords | ヒ素化合物 / エピジェネティクス / ヒストン修飾 / 細胞毒性 |
Research Abstract |
まず昨年度に引き続き、本研究計画の主目的である「ヒ素化合物による、ヒストン修飾の多様性」について検討を進めた。3価無機ヒ素(iAs(III))の濃度、時間などの処理条件を変え、また昨年度は検討していなかったヒストン修飾部位についても検討を加え、ヒストンH3のN末端部の10のアミノ酸、22種類の修飾について検討した。その結果、iAs(III)により修飾を受けたのは、4つのアミノ酸、6種類の修飾であった。最も顕著に修飾されたのは①Ser10-リン酸化で1μMから観察され、25μMでは約18倍修飾された。次いで②Lys9Ser10-トリメチルリン酸化、③Thr11-リン酸化の順で、2.5μM、5μMより修飾が増強され、25μMではそれぞれ15倍、8倍程度修飾された。また、④Lys9-ジメチル化および⑤Lys9-トリメチル化は高濃度(25μM以上)のiAs(III)処理により観察された。一方、⑥Lys14-アセチル化は10μM以上の処理で、修飾が抑制された。 また、本年度の目標のである、「ヒ素化合物によるヒストン修飾の転写制御に及ぼす影響」についてもあわせて検討を行った。これまでの検討より、iAs(III)により修飾が最も顕著であったヒストンH3Ser10のリン酸化に焦点をあて、クロマチン免疫沈降法を用い、Ser10がリン酸化修飾されているヒストンH3の近傍に、iAs(III)で誘導される転写因子の1つであるEGR1が局在することを明らかにした。このことは、iAs(III)によるEGR1の発現誘導に、ヒストン修飾が関与している事を示唆している。さらに、ヒストンH3の10番目のSerをAlaに変異させた発現ベクターを作成し、ヒト培養細胞(HeLa)に導入して安定発現株が樹立できたので、この細胞を用いiAs(III)によるヒストン修飾と転写制御の関係について今後検討を進めて行きたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の主目的である「ヒ素化合物による、ヒストン修飾の多様性を明らかにする」については順調に進行している。しかしながら、本年度行う予定であった、細胞内での修飾ヒストンの局在性についての検討は、予備的検討しか行えなかった。しかし、ヒストンH3の修飾部位(Ser10)に変異を入れた遺伝子を導入した細胞株の確立、クロマチン免疫沈降法を用いたヒ素化合物による遺伝子発現制御へのクロマチン修飾の関与についての研究も進んでいる。 以上のように、本研究はおおむね順調に進行しているが、全体的に見るとやや遅れているのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
iAs(III)により顕著に修飾されたヒストンH3の部位はLys9, Ser10, Thr11の3つの隣接したアミノ酸であったので、これらの修飾が同一のヒストンH3上の連続したアミノ酸でみられるのか、それとも異なるヒストンH3が修飾されているのかについて、免疫蛍光染色法を用いて修飾ヒストンH3の細胞内局在を調べることによって明らかにしたい。 さらに、修飾がみられた①Ser10-リン酸化、②Lys9Ser10-トリメチルリン酸化、③Thr11-リン酸化、④Lys(9)-ジメチル化、⑤Lys(9)-トリメチル化、⑥Lys14-アセチル化に関与している酵素の検討を行い、iAs(III)によるヒストン修飾メカニズムの詳細を明らかにしたい。 また、ヒストンH3のSer(10)をAlaに置き換えた遺伝子を導入した細胞のクローンが樹立できたが、本年度の研究成果よりLys(9)、Thr(11)の修飾にも非常に興味がもたれので、これらのアミノ酸を他のアミノ酸に置き換えた変異ヒストンH3遺伝子を導入した細胞の確立もあわせて行いたい。そして、これらの変異遺伝子を導入した細胞を用い、ヒ素化合物により誘発される遺伝子発現異常、細胞毒性、細胞分裂異常へのエピジェネティクな制御の関与について検討を進めていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究を遂行するにあたり、必要な設備、機器類は現有のものが使用可能であり、必要な研究経費は主に消耗品である。研究費は、細胞培養に必要な血清、培地、培養機器類、ならびにイムノブロット、クロマチン免疫沈降、免疫蛍光染色に必要な抗体、ヒストン修飾酵素の阻害剤をはじめとする各種試薬類の購入に充てる予定である。
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