2011 Fiscal Year Research-status Report
PCBによるヒト甲状腺ホルモン撹乱作用発現メカニズムの解明を目指した包括的研究
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23510083
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Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
加藤 善久 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (90161132)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 甲状腺ホルモン撹乱 / サイロキシン / PCB / トランスサイレチン / グルクロン酸抱合酵素 / 2,2',4,5,5'-ペンクロロビフェニル / TTRノックアウトマウス / 肝臓 |
Research Abstract |
本研究では、新たに提案した血中サイロキシン(T4)濃度低下作用機構におけるT4の肝臓への蓄積メカニズムの実体を解析するために、T4の輸送タンパクであるトランスサイレチン(TTR)をノックアウトしたマウスに、2,2',4,5,5'-pentachlorobiphenyl (PentaCB)を投与し検討を行った。 野生型(C57BL/6系)マウスにPentaCB (112 mg/kg)を投与した時、血清中総T4濃度は著しく低下した。一方、TTRノックアウトマウスでは変化しなかった。この時、両マウスにおいて肝臓のUgt1a1の発現量は、PentaCBにより同程度に増加した。また、PentaCBを処置した両マウスに[125I]T4を静脈内投与した時、血中から[125I]T4の消失は、PentaCBを投与した野生型マウスにおいて著しく促進したが、TTRノックアウトマウスではその促進はわずかであった。この時、両マウスにおいて、PentaCBの投与により[125I]T4の分布容積(Vd)及び[125I]T4の肝臓におけるKp値は顕著に増加し、[125I]T4は主に肝臓に移行した。また、野生型マウスにおいて、PentaCBを投与した場合、[125I]T4とTTRとの結合率は減少した。一方、TTRノックアウトマウスでは、PentaCB処置により、[125I]T4と血清タンパクとの結合率は変化しなかった。 以上、野生型マウスにおいて、PentaCBによる血清中T4濃度の低下は、T4の血中から肝臓へ蓄積によって起こることが示された。また、PentaCBによるT4とTTRとの結合阻害は、血清中T4濃度の低下を促進することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回、TTRノックアウトマウスの飼育、繁殖を行い、血中甲状腺ホルモン濃度、甲状腺ホルモンの代謝に関わる代謝酵素活性、血中T4と甲状腺ホルモン輸送タンパクとの結合率、甲状腺ホルモンの体内動態を薬物動態学的及び分子生物学的にin vivoとex vivoで検討し、PCB投与による血中T4濃度の低下にTTRが重要な役割を果たしていること明らかにし、血清中T4濃度の低下メカニズムの解明を推進することができた。また、下記の(1)、(2)、(3)についても並行して実験を進め、徐々に結果が出つつある。(1) AhRリガンドのPCB、CARリガンドPCB、AhRとCARの両リガンドであるPCBにおいて、血中T4濃度低下作用における肝臓へのT4の蓄積量の増加の寄与率の違い明確にするため、CB126、CB118、CB153及びKC500をラット、TCDDに高感受性マウス、TCDDに低感受性マウス、モルモット、ハムスターに低用量連続投与を行い、それらの関係を調べる。(2) PCBのヒトにおける血中甲状腺ホルモン濃度低下発現メカニズムを解明するため、特定のタンパクや核内レセプターがヒトに類似した動物(DBA/2系マウス、Gunnラット)に、CB126、CB118、CB153及びKC500を低用量連続投与しPCBによる影響を調べ、ヒトへの影響に応用する。(3) (2)に関連して、PCBのヒトにおける血中甲状腺ホルモン濃度低下の発現メカニズムを解明するため、各種PCBをDBA/2系マウス、TTRノックアウトマウス及びGunnラットに低用量連続投与し、血中T4濃度の低下時に[125I]T4を静脈内投与し、血中[125I]T4の代謝回転、血中[125I]T4と甲状腺ホルモン輸送タンパクとの結合割合、[125I]T4の組織分布、肝臓の甲状腺ホルモンの取り込み・排泄に関わるトランスポーターの変動を調べる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、異なる核内レセプターを指向する数種のPCBなどを、PCBに対して耐性の異なる動物、遺伝子組み換え動物、特定のタンパクや核内レセプターがヒトに類似した動物に投与するなどして、甲状腺ホルモンの体内動態及び甲状腺ホルモントランスポーターや甲状腺ホルモン分泌タンパクの発現変動を薬物動態学的及び分子生物学的にin vivoとex vivoで包括的に解析することにより、PCBの甲状腺ホルモン撹乱作用発現メカニズムを解明する。(1) AhRリガンドのPCB、CARリガンドPCB、AhRとCARの両リガンドであるPCBにおいて、血中T4濃度低下作用における肝臓へのT4の蓄積量の増加の寄与率の違いを明確にするため、CB126、CB118、CB153及びKC500をラット、TCDDに高感受性マウス、TCDDに低感受性マウス、モルモット、ハムスターに低用量連続投与を行い、それらの関係を調べる。(2) PCBの血中T4濃度低下において提案した新規メカニズムである肝臓へのT4の蓄積量の増加に、甲状腺ホルモントランスポーターが関与していることを示唆した。そこで、甲状腺ホルモンの血管側細胞膜から肝実質細胞への取り込みにおいて、トランスポーターの関与を明らかにする。(3) PCBの血中T4濃度低下において提案した新規メカニズムである肝臓へのT4の蓄積量の増加に、甲状腺ホルモンの肝臓実質細胞からの胆管への排泄阻害が関与している可能性も考えられる。そこで、甲状腺ホルモンの胆管側細胞膜及び胆管上皮細胞で働く、トランスポーターの関与を明らかにする。(1)は23年度に継続して行い、24年度は(2)および(3)を重点的に行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験動物にPCBを投与した時の血清中甲状腺ホルモン濃度、甲状腺ホルモンやそのグルクロン酸抱合体の輸送に関わるトランスポーターの遺伝子及びタンパクレベルでの発現変動、甲状腺ホルモンの代謝に関わるUGT分子種の発現量及び酵素活性の測定などのin vivo実験には、投与用試薬(PCB類)、実験動物(遺伝子組み換え動物含む)、ラジオイムノアッセイ用試薬、PT-PCR測定用関連試薬、ウエスタンブロット用試薬(抗体)、生化学実験用試薬、ディスポーザブル器具、HPLC用カラム、GC用カラムに使用する。また、実験動物(遺伝子組み換え動物含む)にPCB類を投与し、さらに[125I]T4を静脈内投与し、血中[125I]T4の代謝回転、血中[125I]T4と甲状腺ホルモン輸送タンパクとの結合割合、[125I]T4の組織分布量、胆汁中T4のグルクロン酸抱合体の排泄量の測定をするex vivo実験には、投与用試薬(PCB類)、実験動物(遺伝子組み換え動物含む)、RI実験用試薬([125I]T4)、組織免疫学的検査用試薬(抗体)、PT-PCR測定用関連試薬、HPLC用カラム、ディスポーザブル器具に使用する。各細胞への[125I]T4の取り込み及び排泄実験、甲状腺ホルモントランスポーターの遺伝子及びタンパクレベルでの発現変動の解析実験及びヒト血清を用いた[125I]T4の競合阻害実験には、RI実験用試薬([125I]T4)、PT-PCR測定用関連試薬、ウエスタンブロット用試薬(抗体)、細胞培養用試薬、生化学実験用試薬、ディスポーザブル器具に使用する。実際には、当該研究費では不足するが、大学からの研究費もこの研究の遂行に充当する。また、成果発表のために旅費に使用する。
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