2012 Fiscal Year Research-status Report
PCBによるヒト甲状腺ホルモン撹乱作用発現メカニズムの解明を目指した包括的研究
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23510083
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Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
加藤 善久 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (90161132)
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Keywords | 甲状腺ホルモン撹乱 / サイロキシン / PCB / 肝臓 / グルクロン酸抱合酵素 / 2,3',4,4',5-ペンクロロビフェニル / トランスサイレチン / マウス |
Research Abstract |
本研究では、新たに提案した血中サイロキシン(T4)濃度低下作用機構におけるT4の肝臓への蓄積メカニズムの実体を解析するために、以下の検討を行った。C57BL/6系マウス及びDBA/2系マウスに、TCDD様作用とフェノバルビタール様作用を併せ持つ混合タイプのPCB、2,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl (CB118)を投与し、5日後に血清中甲状腺ホルモン濃度及び肝臓の薬物代謝酵素活性を測定した。また、その時に[125I]T4を静脈内投与し、胆汁中[125I]T4のグルクロン酸抱合体の排泄量、血中[125I]T4とトランスサイレチン(TTR)との結合率、[125I]T4の組織分布量を測定した。 両マウスにCB118を投与したとき、血清中総T4、遊離T4及び総T3濃度はいずれも有意に低下した。一方、肝臓のT4のグルクロン酸抱合酵素活性、UGT1a及びUGT1a1の発現量及び胆汁中[125I]T4のグルクロン酸抱合体の排泄量は、C57BL/6系マウスでは有意に増加したが、DBA/2系マウスでは変化しなかった。また、C57BL/6系マウスにCB118を投与すると、[125I]T4とTTRとの結合率は低下し、アルブミン、サイロキシン結合グロブリンとの結合率は増加した。一方、DBA/2系マウスではこれらの変化は認められなかった。さらに、肝臓の[125I]T4のKp値(血清-肝臓間分配係数)、肝臓の[125I]T4の分布量及び肝臓単位重量当たりの[125I]T4の分布量は、両マウスにCB118の投与により顕著に増加した。また、CB118を投与したとき、両マウスの肝臓重量は有意に増加した。 以上、CB118による血清中T4濃度の低下は、主として肝臓へのT4の蓄積によって起こり、胆汁中へのT4のグルクロン酸抱合体の排泄も一部関与していることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
TCDDに高感受性なC57BL/6系マウス、また低感受性なDBA/2系マウス、トランスサイレチン(TTR)ノックアウトマウス、UGT1欠損ラット(Gunnラット)などに、AhRリガンドの3,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl (CB126;co-planar PCB)、CARリガンドの2,2',4,4',5,5'-hexachlorobiphenyl (CB153;non-planar PCB)、AhR及びCARリガンドの2,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl (CB118; mono-ortho PCB)及びこれらを成分として含み「油症」の原因となったKanechlor-500 (KC500)を投与し、血中甲状腺ホルモン濃度、甲状腺ホルモンの代謝に関わる代謝酵素活性、血中T4と甲状腺ホルモン輸送タンパクとの結合率、甲状腺ホルモンの体内動態を薬物動態学的及び分子生物学的にin vivoとex vivoで検討し、PCB投与による血中T4濃度の低下は、主として肝臓へのT4の移行(蓄積)によって起こること、また胆汁中へのT4のグルクロン酸抱合体の排泄も一部関与していることを明らかにし、血清中T4濃度の低下メカニズムの要因を解明しつつある。また、肝臓へのT4の移行(蓄積)は、肝肥大によること、TTRが重要な役割を果たしていること、また甲状腺ホルモントランスポーターの関与があることを示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
甲状腺ホルモンの体内動態及び甲状腺ホルモントランスポーターや甲状腺ホルモン分泌タンパクの発現変動を薬物動態学的及び分子生物学的にin vivoとex vivoで包括的に解析することにより、PCBの甲状腺ホルモン撹乱作用発現メカニズムを解明する。PCBの血中T4濃度低下において、肝臓へのT4の蓄積量の増加に、甲状腺ホルモントランスポーターが関与していることが示唆されることから、以下の点に重点をおいて研究を行う。 甲状腺ホルモンの血管側細胞膜から肝実質細胞への取り込みにおいて、トランスポーターの関与を明らかにする。PCBを投与し、各動物の肝切片を用いて、甲状腺ホルモンやそのグルクロン酸抱合体の輸送に関わるトランスポーターとして、L型アミノ酸トランスポーター(LAT1、LAT2)、有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP1A2、OATP2、OATP1C1、OATP4A1)、モノカルボン酸トランスポーター(MCT8)、ATP結合カセットトランスポーター(MRP1、MPR2、MRP3)及びタウロコール酸共輸送ペプチド(NTCP)の遺伝子及びタンパクレベルでの発現変動を解析する。 一方、甲状腺ホルモンの肝臓実質細胞からの胆管への排泄阻害が関与している可能性も考えられることから、甲状腺ホルモンの胆管側細胞膜及び胆管上皮細胞で働く、トランスポーターの関与を明らかにする。PCBを投与し、各動物の肝切片を用いて、甲状腺ホルモンやそのグルクロン酸抱合体の輸送に関わるトランスポーターとして、MRP1、MPR2、MRP3、MDR1、BCRP、BSEPの遺伝子及びタンパクレベルでの発現変動を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験動物(遺伝子組み換え動物含む)にPCBを投与した時の血清中甲状腺ホルモン濃度、甲状腺ホルモンやそのグルクロン酸抱合体の輸送に関わるトランスポーターの遺伝子及びタンパクレベルでの発現変動、甲状腺ホルモンの代謝に関わるUGT分子種の発現量及び酵素活性の測定などのin vivo実験には、投与用PCB類、実験動物、ラジオイムノアッセイ用試薬、PT-PCR測定用関連試薬、ウエスタンブロット用試薬(抗体)、生化学実験用試薬、ディスポーザブル器具、HPLC及びGC用カラムに使用する。また、実験動物にPCB類を投与し、さらに[125I]T4を静脈内投与し、血中[125I]T4の代謝回転、血中[125I]T4と甲状腺ホルモン輸送タンパクとの結合割合、[125I]T4の組織分布量、胆汁中T4のグルクロン酸抱合体の排泄量の測定をするex vivo実験には、投与用PCB類、実験動物、RI実験用試薬([125I]T4)、組織免疫学的検査用試薬(抗体)、PT-PCR測定用関連試薬、HPLC用カラム、ディスポーザブル器具に使用する。各細胞への[125I]T4の取り込み及び排泄実験、甲状腺ホルモントランスポーターの遺伝子及びタンパクレベルでの発現変動の解析実験及びヒト血清を用いた[125I]T4の競合阻害実験には、RI実験用試薬([125I]T4)、PT-PCR測定用関連試薬、ウエスタンブロット用試薬(抗体)、細胞培養用試薬、生化学実験用試薬、ディスポーザブル器具に使用する。ラット及びヒトの肝臓と小腸における甲状腺ホルモンの代謝に関わるUGT分子種の解析実験には、ヒトUGT発現昆虫細胞ミクロソーム、ヒト肝臓及びヒト小腸ミクロゾーム、ウエスタンブロット用試薬(抗体)に使用する。実際には、申請額では不足するが、大学からの研究費もこの研究の遂行に充当する。また、成果発表のための旅費に使用する。
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