2011 Fiscal Year Research-status Report
嫌気性菌の遺伝子工学を応用した水素ガス生産技術の開発
Project/Area Number |
23510095
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
木村 哲哉 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (00281080)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | Clostridium / 水素 / ヒドロゲナーゼ / 植物バイオマス / キチン |
Research Abstract |
本研究は今まで注目されてこなかった嫌気性微生物による未利用バイオマスから次世代エネルギーへの変換技術の開発を究極の目的とする。嫌気性細菌のなかでも、難分解性バイオマスのひとつであるキチンを生分解し水素ガスを高生産するClostridium paraputrificumを対象として、遺伝子工学的にバイオマス分解能を高め、さらに水素ガス生産性を向上させることを最終目標としている。本年度は、(1)キチン分解性の本菌へ植物性のバイオマスであるセルロース・ヘミセルロース分解能を付与するための基礎研究、(2)水素生産の代謝ステップで最もカギとなるヒドロゲナーゼについて遺伝子レベルでの解析、(3)分子育種に必須である発現プロモーターの単離と解析、(4)代謝工学に必要となるゲノム情報の取得を行った。結果は以下の通りである。(1)本菌へヒドロゲナーゼA遺伝子プロモーターを用いてClostridium josuiのセルラーゼB遺伝子とClostridium thermocellumのキシラナーゼA遺伝子をpJIR751ベクターを用いて導入した。形質転換体はそれぞれセルラーゼ活性とキシラナーゼ活性を示し、SDS-PAGEと活性染色の結果から目的の酵素が発現されていることを確認した。(2)ヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター領域を確定するため5’Race法を使って転写開始点を決定した。(3)本菌で高発現が期待されるフェレドキシン遺伝子、ヒドロゲナーゼ遺伝子や炭素源によって誘導可能なキチナーゼ遺伝子のプロモーターをPCRで増やして大腸菌GUS遺伝子をレポーターにして解析を行ったところ、ヒドロゲナーゼプロモーターが最も強く、またキチナーゼ遺伝子chi18Dのプロモーターは培地中のキチンで10倍以上発現が向上することが分かった。(4)本菌のゲノム情報についてドラフト解析を行い3.48Mbの配列を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)本菌へ導入するセルラーゼの選抜については、発現可能な二つの遺伝子C. josui celBとC. thermocellum xynAを決めることが出来た。一方で、導入は出来たが発現しなかった遺伝子も多く存在した。特にセルロース分解に関して重要と考えられているエキソ型セルラーゼをうまく発現出来なかった。原因は不明であるが、他の研究から、これらの発現・分泌には特別なシャペロンが必要という報告があり、これらを検討すべきであった。(2)水素ガス代謝にカギとなるヒドロゲナーゼA遺伝子はすでに単離をしていたが、この遺伝子の発現や酵素生産に関しては解析がまだであった。どこで、5’Race法で転写開始点を決定し、プロモーター領域について決定できたこと、レポーター遺伝子による解析によってプロモーターの強さが予想に反してそれほど強くないこと、mRNAは比較的多く存在していることがわかった。しかし、ピルビン酸代謝に関わる他の酵素、特に水素ガス生産と競合する乳酸デヒドロゲナーゼについて遺伝子レベルでは解析できたが、大腸菌で発現させたところ酵素活性が得られなかった。その他の代謝関連遺伝子を調べるためにリアルタイムPCR法を応用する予定であったが、嫌気性菌からの純度の高いmRNA単離が難しく方法を確立するのに時間がかかってしまった。しかし現在は解決方法が確立しつつあり、次年度には予定通り解析が出来る予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
海洋性バイオマスであるキチンを分解する本菌へ、地球上で最も豊富に存在する植物性バイオマスを分解する能力を付与するため、植物細胞壁分解能をもつ嫌気性細菌から取得したセルラーゼやキシラナーゼ遺伝子を導入して発現が出来るか調べた。その結果、C. josui のセルラーゼB、C. thermocellumのキシラナーゼAを発現することが出来た。しかし、C. josuiのセルラーゼDやセルラーゼE、C. stercorariumのキシラナーゼCなどの導入株では活性が検出出来なかったり、ごく僅かしか検出できなかったものもあった。RT-PCRでしらべたところmRNAは正常に転写されていることから、転写後の翻訳過程に問題があるのではないかと予測された。H24年度は、さらに多くのセルラーゼやキシラナーゼ遺伝子の導入を試みると同時になぜ活性が発現されないのかという点を解析する。解決方法として、分泌シグナルの改変・変更、コドンを本菌で使用頻度の高いものへ変えるなどの方法が考えられる。水素ガス高生産については、ヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーターが発現が予測に反して強くないことが分かった。一方で予備的な研究では、mRNAの存在量は多いことが分かっており、転写と翻訳についてなにか重要なカギが隠されているような予測をしている。H24年度は、プロモーターの解析と、mRNAの安定など詳細な解析を行い水素ガス生産のメカニズム解明を行って水素ガス高生産へつなげる。また、ドラフトゲノム情報を得たが、繰り返し配列によって情報が分断されているなど遺伝子の全体像を解析するにはさらに正確な情報が必要となった。そこで、東京大学オーミックス解析センターと共同でゲノムの完全解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)引き続き遺伝子の解析を行うための試薬購入が最も大きい。特にゲノム解析を完成させるための試薬購入を予定しており、試薬代が大きなコストとなる。(2)本研究は遺伝子を扱う実験が大半を占めるため、使い捨てのプラスチック器具を多量に使用することからそのための費用も必要となる。(3)学会において研究成果の発表を行うための出張とゲノム解析を行うための出張を予定している。
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