2012 Fiscal Year Research-status Report
コロイダルナノドットの表面改質と有機メモリトランジスタへの応用
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23510132
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
田中 一郎 和歌山大学, システム工学部, 教授 (60294302)
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Keywords | 有機メモリ素子 / 有機薄膜トランジスタ / コロイダルナノドット / トンネル効果 / エネルギー移動 |
Research Abstract |
本研究では、コロイダルナノドット(以下ドット)をフローティングゲートに用いた有機メモリトランジスタの特性向上を目的としている。すでに、ドットの単粒子薄膜やドットを高密度に分散させた高分子薄膜をゲート絶縁膜とペンタセン層の間に形成したメモリトランジスタを作製して、大きなメモリ効果と高いキャリア移動度を両立させることに成功している。そのメカニズムとしては、コントロールゲートへの書き込み電圧印加により、ペンタセン分子からドットへ電子がトンネルして閉じ込められるモデルを提案している。 このモデルによれば、メモリ効果を得るための書き込み電圧にはしきい値が存在する。トンネル効果が生じるためにはペンタセン分子の電子軌道とドット内のエネルギー準位が揃う必要があるからである。そこで、大きさの異なるドットの単粒子層をフローティングゲートに用いたペンタセンメモリトランジスタを作製し、このしきい値電圧との関係を検討した。ドットの大きさが違うと内部のエネルギー準位が変化するため、それに応じてしきい値電圧も変化すると考えられる。実際、ドットの直径が平均2.4 nmと5.3 nmの場合を比較すると、前者のほうが書き込み電圧のしきい値が約15 V高いことが確認された。これは定量的にもほぼ妥当な値と考えられ前述のモデルを支持する結果が得られた。 また、前年度に引き続きCdSe/ZnSドットからのフォトルミネッセンスの時間分解測定を行い、エネルギー移動の効果を検討した。オクタデシルアミンが配位したドットでは蛍光寿命が数十ナノ秒であり、20K以下の低温で測定した場合にはエネルギー移動の時定数が8.7 nsであるという結果が得られていた。次に、配位子をピリジンに交換したドットを使って同様の実験を行った。しかし、配位子交換したドットでは蛍光寿命が数nsになってしまい、エネルギー移動の効果が測定できなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の計画では平成23年度にエネルギー移動の測定に基づいてコロイダルナノドットの配位子交換技術を確立し、平成24年度はそれを有機メモリトランジスタの作製に応用する予定であった。 しかし、配位子交換前のドットを用いた薄膜では、蛍光の時間分解測定におけるドット間エネルギー移動の効果が確認できてその時定数が測定できたものの、配位子交換したCdSe/ZnSドットを用いた場合には蛍光寿命がエネルギー移動の時定数より短くなってしまうという結果になった。そのためエネルギー移動の時定数の評価が難しいという予期しなかった問題が生じた。この問題が解決していないため、配位子交換したドットを用いた有機メモリトランジスタの作製に至っておらず、遅れていると評価せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
配位子交換したCdSe/ZnSコロイダルナノドットの蛍光寿命が短いという問題を解決するために、もともと蛍光寿命が1桁程度長いPbSドットを用いることを計画している。ただし、PbSドットは発光波長が近赤外領域にあるためCdSe/ZnSドットの場合に使用していた可視光領域の検出器が使用できないという実験上の難点がある。そこで、近赤外領域での発光の時間分解測定が低温で可能な学外の研究室を探し、本研究への協力を依頼した。幸い先方の了解が得られ、研究協力が得られることになった。 今年度は、PbSドットを用い、エネルギー移動の測定を通して配位子交換技術を確立し、ピリジンに配位子交換したPbSドットの単粒子層をフローティングゲートとするペンタセンメモリトランジスタを作製して、書き込み特性の向上を達成する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は30万円弱の次年度使用額が生じた。これは学術誌に投稿した論文の採択が決まったもののその費用の請求が次年度になったことと、研究遂行上予期しなかった問題が生じたためコロイダルナノドットの購入が予定より少なかったためである。 この繰り越し分を含めた平成25年度分の研究費は、以下のように使用する計画である。 (1) 実験に必要なコロイダルナノドット、シリコン基板、薬品、実験器具などを購入する物品費 (2) 研究打ち合わせおよび成果発表に必要な旅費 (3) 国際会議・国内学会等参加費および学術誌への論文投稿費用
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Research Products
(4 results)