2012 Fiscal Year Research-status Report
客の待ち時間に制限がある待ち行列システムの基礎研究
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23510160
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
河西 憲一 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50334131)
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Keywords | システム工学 / 待ち行列理論 / 応用確率過程論 / モデル化 / 性能評価 |
Research Abstract |
本研究課題では客の待ち時間に制限のある待ち行列システムについての基礎研究を実施した。本研究課題に関連して国内外で主に、1)客の制限待ち時間は一定、ないし指数分布に従う場合、2)客の到着はポアソン過程、サービス時間は指数分布に従う場合、の大きく2つの特徴を有する場合が検討されてきた。平成24年度の本研究課題の取り組みとして、1)の条件を緩和し、さらにサービス過程に相関構造がある場合について、補助変数法を使ったマルコフ過程により解析し、定常待ち行列長分布について検討した。さらに、システム容量が有限の待ち行列システムに限定して、待ち行列長分布と性能評価指標を算出するアルゴリズムの開発を目指した。その結果、次の成果と知見を得た。 客の到着過程はポアソン過程であるが、休暇を伴うサービス過程を想定した相関のあるサービス過程を想定し、かつ客の制限待ち時間として一般分布(一定分布や指数分布を含む)を仮定し、定常状態での待ち行列長分布についての大域平衡方程式を補助変数法の考え方に従ってマルコフ過程として定式化し、待ち行列長分布が満たすべき積分微分方程式を導出した。その結果、制限待ち時間が指数分布に従う場合については定常待ち行列長分布と待ち行列システムの性能評価指標を算出するアルゴリズムを構成できた。具体的な応用例として、コールセンターで想定されるサービス終了後に後処理を含むような場合を相関のあるのサービス過程としてモデル化し、待ち行列長の定常分布やコールセンターにおける到着客の待ち時間分布や客が途中放棄する確率など、コールセンターの性能解析上有用となる性能評価指標を導出した。さらに前年度までの研究成果を応用し、コールセンターの性能解析モデルとして必要な要素(客の再呼、途中放棄、エージェントの後処理)をほぼすべて網羅したマルコフモデルの構築に成功し、各要素が性能評価指標に与える影響を定量化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
客の待ち時間に制限のある待ち行列システムについて、客の制限待ち時間(途中放棄時間)として一般分布(一定分布や指数分布を含む)を仮定し、相関のあるサービス過程を想定し定式化することができた。この結果と前年度までの成果から、制限時間が指数分布に従う場合については客の到着過程に相関があり、かつサービス過程にも相関構造がある一般的な待ち行列システムについて、性能評価指標の算出アルゴリズムを開発することができたため、所期の目的をおおむね達成できたと考える。 開発した待ち行列モデルとその性能評価指標算出アルゴリズムを用いてコールセンターを想定した待ち行列システムの性能を解析した。その結果、コールセンターの性能解析モデルとして必要にして欠くことができない要素である、客の再呼、客の途中放棄、及びエージェントの後処理をすべて考慮したモデルの構築が可能となり、また各要素の有無が性能評価指標に与える影響を比較評価することも可能となった。本研究によってコールセンターで必要な要素をすべて盛り込んだ単一の待ち行列モデルを解析することで性能評価指標を算出することができることになり、産業上その意義は大きいと考えられる。 これまでに国内外で検討されてきたコールセンターを想定したモデルは、各々の要素を個別に、あるいは一部のみを考慮した場合である。すなわち、報告者の知る限り各要素をすべて取り込んだモデルは見当たらず、構築したモデルはコールセンターの性能解析モデルとしては現時点で国内外を見渡しても他に類がないと考えられ、完成度が高くかつ現実に整合した場合の性能指標を定量評価できる極めて有益なモデルと推測される。 以上の結果から、おおむね順調に研究が進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの研究成果により、客の到着に相関構造があり、サービス過程にも相関があって、なおかつ客が待ち合わせを途中放棄する待ち行列モデルの性能を評価する手段について知見が得られ、途中放棄時間が指数分布に従う場合は性能指標を評価することもできた。また本研究で強く意識したコールセンターの性能解析に大いに資することも明らかになり、本研究課題で想定した主要な目標にかなり近づいたといえる。その一方で、これまでの研究の過程で新たな課題も明らかになった。すなわち、途中放棄時間が指数分布でない場合の対策である。現実のコールセンターでは途中放棄時間が必ずしも指数分布で近似できるとはいえず、一般分布を仮定したモデルが望ましい。一般分布を想定した場合、指数分布に特徴的な無記憶性という性質が適用できず、本研究の遂行過程でもその解析は一般的には困難であるとの知見を得ている。この問題を近似的に解決する一つの方法として、途中放棄時間の分布関数の漸近形を活用した近似評価方法の開発があげられる。また他の解決手段として、途中放棄時間を相型分布として扱うことも考えられる。この場合、扱う待ち行列モデルの状態空間が増大するため、大規模なマルコフ連鎖を解析する必要に迫られる。したがって、状態空間の増大を抑制する工夫が必要である。その他にも解決策を検討しつつ、上記の観点を軸にして今後の研究を推進する。 また一方で、本研究で想定するコールセンターはインバウンド型のコールセンターであることは否めない。コールセンターには他にもアウトバウンド型、あるいはインバウンド型とアウトバウンド型が混在したコールセンターも存在し、現実の世界ではより複合的な側面を持つこともある。報告者はこれまでに、本年度に開発したモデルを基調としたインバウンド型とアウトバウンド型が混在する場合のモデルについて初期検討を実施した。この課題についても検討を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(6 results)