2011 Fiscal Year Research-status Report
災害科学の専門家による情報発信の傾向:状況と立場が与える心理的バイアス
Project/Area Number |
23510219
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大木 聖子 東京大学, 地震研究所, 助教 (40443337)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中谷内 一也 同志社大学, 心理学部, 教授 (50212105)
横山 広美 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50401708)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 災害情報 / 地震 / 津波 / ラクイラ地震 / 東日本大震災 / 東北地方太平洋沖地震 / 専門家 / コミュニケーション |
Research Abstract |
300名以上の死者を出した2009年4月のイタリア・ラクイラ地震(USGSによるモーメント・マグニチュード6.3)では,その発生の半年前から群発地震活動が続いていた.地震発生の一週間前,地震活動のさらなる活発化と住民の不安に鑑みて,当局は大災害リスク委員会を開催した.この委員会による情報発信が事実上の安全宣言となり,被害が拡大したという住民らの訴えから,2010年6月にラクイラ検察局は専門家らの捜査に踏み切った.研究代表者は,本件に関する資料収集を行い,さらに当事者らにインタビューを行うことで,科学者,行政担当者などそれぞれの置かれている状況や立場に応じて発信すべき情報にどのようなバイアスがかかるのか調査し,本件に関する最善の情報発信について考察を行った.国外における類似の事例としては,1980年代末にイギリスでの狂牛病対策の政府諮問委員会(通称サウスウッド委員会)が挙げられる.のちのサウスウッド委員会と政府の情報発信について調査を行ったフィリップ委員会の発表によれば,政府当局は初めから安全宣言を出すつもりでサウスウッド委員会の報告書を取り扱っていた.国内においても,大正の桜島噴火における鹿児島測候所の「噴火ナシ」情報,関東大震災における今村・大森論争などがあり,これらの資料収集を行った.また,東日本大震災における津波情報やハザードマップなどの減災を目的として緊急時・平常時に出された情報などについて調査した.さらに,2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では特に津波被害が大きかったことから,国内(西日本)在住者の津波に関するリテラシーレベルの調査を行った.この調査によって,皮肉にも,巨大津波の高さに耳慣れてしまったことで1mや3mといった警報レベルの津波高さへの危機感が薄れていることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東北地方太平洋沖地震の発生を受けて,研究時間の多くを情報発信業務に費やすこととなったのは研究計画を立てた当初には思いもよらないことであったが,この震災における情報発信そのものを本研究の対象とすることで,豊富なデータが揃いつつある状況と言える.これらの調査を引き続き行い,本研究に的確に生かしていきたい.また,本研究の動機づけであったイタリア・ラクイラ地震での専門家訴追問題については裁判が続いているが,平成23年度にはわずかながら進展を見せたため,平成24年度初めには状況を把握できるような体制を整えた.一方で,平成23年度末に起きた「首都直下地震4年以内70%」という情報発信は,その質や発信方法について検証する必要があろう.この情報発信による影響が年度内に収束を見せなかったことから,本件に対する年度内の調査は断念し,平成24年度の課題とすることとした.
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Strategy for Future Research Activity |
東北地方太平洋沖地震における情報発信について,緊急時と平常時との双方の観点から,引き続き調査を続ける.専門家が置かれる状況や立場に応じて,情報発信にはどのようなバイアスが生じるのかを検証すると同時に,情報の受け手である一般市民が,情報をどのように活用しているのか(いないのか)を明らかにする.これらの研究により,災害科学分野が所持する知識を最大限に生かし,専門家による情報発信によって社会システム全体の被害を減らすことができるような方法を模索する.また,平成23年度末に起きた「首都直下地震4年以内70%」という情報発信はは,本研究の立場から検証する必要があろう.人々がこの情報に対してどう意識付けされ,どのような行動を取ったのか,専門家はどのような質の研究成果を,どのように,そしてなぜ発信したのか,可能な限り調査を行い,専門家による情報発信の質の向上と,情報の受け手へのより良い情報発信のあり方について検討する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ラクイラ地震における最善の情報発信は何であったかをまとめ,学会および論文にて発表する(旅費・謝金等).「首都直下地震4年以内70%」という情報に対して,一般市民がどう意識付けされ,どのような行動を取ったのかを,ウェブ調査を活用して検証する(謝金等).また,講演先などでのアンケート調査や聞き取り調査を行い(旅費・消耗品費・謝金等),情報の受け手である一般市民の情報処理システムと具体的な防災・減災行動との関連を調査する.これらを学会および論文にて発表する(旅費・謝金等).
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Research Products
(10 results)