2011 Fiscal Year Research-status Report
ミトコンドリア遺伝子転移を利用した重複遺伝子のゲノム内再編成に関する研究
Project/Area Number |
23510236
|
Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
久保 中央 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (60347440)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 植物ミトコンドリア / リボソームタンパク質 / 遺伝子重複 |
Research Abstract |
本研究は、核へ転移した植物ミトコンドリアのリボソームタンパク質遺伝子の遺伝子重複に関するゲノムレベルでの知見を得ることである。 本年度は、植物の進化過程で転移したリボソームタンパク質遺伝子のデータベース検索を行った。その結果、核へ転移した遺伝子の相同配列が同定された。例えばアブラナ科植物では、昨年公表されたハクサイ(Brassica rapa)のゲノム配列から相同遺伝子を検出し、同じアブラナ科植物のシロイヌナズナと比較してハクサイで遺伝子重複が多数存在し、ゲノムサイズに比例して遺伝子重複のケースが大になる傾向が認められた。 解析の過程で、ポプラ(Populus trichocarpa)において、リボソームタンパク質遺伝子rps11遺伝子の一部と相同な新奇遺伝子が同定された。この配列はrps11遺伝子の5'-側配列と相同性を示すが、3'-側配列は芳香族アミノ酸の生合成系酵素と高い相同性を示した。この芳香族アミノ酸の生合成系酵素は葉緑体に局在することが報告されており、他のオルガネラには一切見出されていない。ポプラでは、類似の配列はゲノム内に計5コピー存在していた。この遺伝子のゲノム配列に対応するcDNAをデータベース検索したところ、部分配列しか登録されていなかった。そこで、遺伝子のcDNA全長を5'-RACEおよび3'-RACE法で獲得した。その結果、5コピーの遺伝子のうち3コピーは偽遺伝子化していることが明らかになった。残りの2コピーのうち、一方は他の高等植物で同定されている葉緑体局在型の遺伝子であると推定された。残りの1コピーは上記の新奇遺伝子だった。遺伝子のエキソン・イントロン構造の比較から、新奇遺伝子は、rps11遺伝子の5'-側配列と芳香族アミノ酸の生合成系酵素遺伝子の3'-側配列とがイントロンを介して組み換わった可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の目的である重複遺伝子の検索を実施し、多数の遺伝子重複を検出した。シロイヌナズナとハサクイの比較から、ゲノムサイズと遺伝子重複が比例する傾向が見られた。 遺伝子検索の過程で、遺伝子の構造が変化した新奇遺伝子をポプラのゲノム配列から見出した。解析の結果、遺伝子が計5コピーに重複していることを明らかにし、遺伝子構造の比較から、新奇遺伝子の重複後の生成過程を推定することが出来た。 本来は葉緑体に局在するはずの酵素の遺伝子がミトコンドリア関係の配列を有することは、非常に興味深く、遺伝子重複とその生成機構、さらには遺伝子産物の機能に関して、これまで全く未知の新たな知見が得られる可能性がある点を評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、検出した各重複遺伝子と周辺ゲノム配列における遺伝子配置の保存性を調査し、遺伝子重複とゲノム重複との関係性を検討する。特に前述のポプラの新奇遺伝子については、当該遺伝子の近傍に遺伝子重複と組み換えに関与した可能性のある配列要因を探索する。他の近縁植物における新奇遺伝子の分布を調査し、この遺伝子が生成した進化的タイミングを推定する。 合わせて、重複遺伝子の発現をRT-PCRで調査し、コピー間での発現の差異や組織特異性等を明らかにする。また、遺伝子の翻訳産物の細胞内局在性をクラゲ緑色蛍光タンパク質(GFP)を用いて調査する。さらに、特異抗体が入手可能な場合は、ウェスタンブロット法等でも細胞内局在性の確認を行い、GFPでの実験結果を実際のタンパク質レベルにおいても確認する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
消耗品費を、重複遺伝子と周辺ゲノム配列との保存性を調査するための遺伝子マッピング用試薬(PCR用耐熱性酵素やプライマー、制限酵素等)、遺伝子発現解析としてRT-PCRに使用する試薬(RNA抽出キットやcDNA合成キット、プライマー等)、GFPの実験に用いる融合遺伝子コンストラクト作成のための試薬(クローニングキット、プライマー、DNAシーケンサーの消耗品等)、また、ミトコンドリアおよび葉緑体タンパク質の特異抗体の購入や作成に充てる予定である。 国内・海外旅費を、成果発表および情報収集のための国内・外国旅行に充てる予定である。また、謝金等を、英語校閲費および実験補助に充てる予定である。
|