2011 Fiscal Year Research-status Report
アザミウマの行動制御を標的とした植物防御機構に関する研究
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23510271
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
安部 洋 独立行政法人理化学研究所, 実験植物開発室, 専任研究員 (90360479)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下田 武志 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 病虫害研究領域, 主任研究員 (20370512)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 植物防御 / 虫害 / 行動制御 |
Research Abstract |
アザミウマは農薬抵抗性を容易に発達させる難防除害虫であるとともに植物病原ウイルスの媒介虫でもある。植物病害ウイルス媒介虫によって被る経済的損失は近年、上昇の一途をたどっている。植物病害ウイルス媒介虫の中でも農薬抵抗性を高度に発達させた難防除害虫の代表格であるアザミウマ類による激しい食害とウイルス病による二重被害は世界規模で深刻な問題となっている。そのような中で、ウイルス媒介虫であるアザミウマ類の防除においては「近づけない」ことが何より重要である。そこで、本研究においては、アザミウマの行動を制御している植物側因子の解明し、環境にやさしいアザミウマ忌避法の開発にむけた基盤研究を推進することを目的として実施している。従来の虫害研究では実際に被害が生じている作物を用いるのが通例であるが、本研究においてはリソース、関連情報が豊富なモデル実験植物、シロイヌナズナを用いている。これまでの解析から、植物防御を正常に発揮することができないシロイヌナズナ変異体に対するアザミウマの選好性などを明らかにしている。これらの成果に加えて、当該年度はアザミウマが媒介するウイルス病に感染した植物に対するアザミウマの選好性に対しても新たに解析を行い、アザミウマが植物の防御レベルを敏感に感知し、それに応じて行動することを明らかにした。つまり、ウイルス病に罹病することで変化した、アザミウマに対する防御レベルの低下がアザミウマの選好性に大きく影響していることを、各種シロイヌナズナ変異体やマイクロアレイ解析などにより明らかにした。現在、「葉の代謝成分」や「揮発性成分」に着目し、更に研究を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
農薬抵抗性を高度に発達させた難防除害虫の代表格であるとともに、植物病原ウイルスの媒介虫でもあることが、アザミウマが世界規模で深刻な問題となっている理由である。その問題を解決すべく多くの解析がなされているが、根本的な解決に到る手がかりは得られていない。そのような中で、我々はアザミウマ類の防除においては「近づけない」ことが何より重要であると考え、研究を進めている。このようにアザミウマの行動制御を目指した本研究課題は世界的にみてもユニークなものである。これまでに、モデル実験植物シロイヌナズナにおける実験系により、植物防御を正常に発揮することができないシロイヌナズナ変異体に対するアザミウマの選好性などを明らかにしてした。加えて、アザミウマが媒介するウイルス病に感染した植物においてもアザミウマの選好性が劇的に変化していることを明らかにした。自ら移動する手段を持たない植物病原ウイルスの感染が媒介虫であるアザミウマの行動に影響することは生態学的な観点からも興味深い。更なる解析から、ウイルス感染植物における変則的なアザミウマに対する植物防御が、アザミウマの行動変化に深く関わっていることを明らかにしている。以上のことから、アザミウマは植物の防御レベルを敏感に感知していることを明らかにすると共に、植物防御を活用することで、アザミウマの行動を制御できることを示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度までに、シロイヌナズナ変異体やウイルス感染植物を用いたアザミウマの行動解析や、マイクロアレイを用いた植物防御応答に関する詳細な解析により、アザミウマは植物の防御レベルを敏感に感知していることを明らかにすると共に、植物防御を活用することで、アザミウマの行動を制御できることを示すことができた。これまでの解析はミカンキイロアザミウマを用いて行ったものであるが、近年、ネギアザミウマの被害が日本国内において急増していることから、今後、ネギアザミウマを用いた解析についても改めて開始したい。更に、当該年度に引き続き、葉中成分に着目した改変組換え体作出を行う。加えて、作出された葉中成分改変組換え体や、関連変異体を用いてアザミウマ行動制御に対する影響について解析を進める。同時に、当該年度に作出した、植物防御システムにより制御されている揮発性物質放出に着目した改変組換え体を用いたアザミウマの行動解析についても行う。同時に、アザミウマの行動をより包括的に理解することを目指して、イメージング技術を利用した、植物防御のモニタリング手法の技術開発を進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度は大震災、及び、夏期中の節電の影響が大きく、当初予定していた研究計画や予算使用にも少なからず影響があり、327,672円の未使用額が生じた、これらの予算については、次年度に「今後の研究の推進方策」に記載した内容に従い、予算執行を行う予定である。次年度において、夏期中の節電は当該年度に引き続き、研究の遂行に多きな影響を及ぼすことが予想されている。そのため、7月までを前期、9月以降を後期とあらかじめ想定し、効率的な研究課題遂行と予算使用を目指していきたい。具体的には、当該年度に引き続き、マイクロアレイ解析や定量PCRを用いた発現解析などを行うための高額試薬の購入が必要である。同時にイメージング技術を利用した植物防御のモニタリング手法の技術開発を行うための環境整備を行う。また、植物育成や成分分析などを行うための生化学的解析、分子生物学的解析に用いるための試薬・消耗品類を購入する必要がある。また、成果発表を行うための学会参加費、および論文投稿に関する英文校閲や別刷り購入を予定している。
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Research Products
(5 results)