2012 Fiscal Year Research-status Report
希土類錯体を用いたチロシンリン酸化のリアルタイム検出
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23510276
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
須磨岡 淳 筑波大学, 医学医療系, 講師 (10280934)
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Keywords | 希土類 / リン酸化 / シグナル伝達 / ケミカルバイオロジー / 分析科学 / チロシン / キナーゼ / ホスファターゼ |
Research Abstract |
平成23年度に見出した結果を発展させ、3種のタンパク質チロシンキナーゼ(Src、Fyn、EGFR)と4種の既知阻害剤(Dasatinib、Imatinib、Gefitinib、Staurosporine)を用いたモデル系において、すべての酵素-阻害剤の組み合わせを検討したところ、既知の酵素-阻害剤の組み合わせのみで発光強度の増大が顕著に抑制されることが明らかになった。また、その抑制の程度から、各阻害剤の50%阻害濃度(IC50)に相当する値を定量的に得ることに成功した。この結果は、見出したTb(III)錯体が、タンパク質リン酸キナーゼの阻害剤のスクリーニングに有用であることを示している。また、2種のタンパク質チロシンホスファターゼ(Shp-1、PTP B1)と2種の阻害剤(オルトバナジン酸ナトリウム、PTP inhibitor I)に対して、そのすべての組み合わせについて同様の検討を行い、Tb(III)錯体の発光強度の変化から、IC50に相当する値を得ることにも成功している。さらに、キナーゼとホスファターゼが共存した系に関しても、Tb(III)錯体の発光強度の変化から基質ペプチドのリン酸化の状態を見積もることに成功し、ここへ添加した阻害剤の効果の検出も可能であることが明らかになった。これらの結果は、本申請研究が目指すタンパク質中のチロシンリン酸化検出などのより複雑な系において、Tb(III)錯体からの発光を用いた検出が一つの有望な手段であることを示している。 一方、オリゴペプチド配位子を用いたTb(III)錯体系に関しては、NMR等の測定によりペプチド-Tb(III)間の結合定数に問題があり、実際にタンパク質のチロシンリン酸化の検出への応用が難しいこと明らかになった。そのため、タンパク質の化学修飾系へTb(III)錯体を応用することへと研究計画の変更を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
オリゴペプチドを基質として、既知の3種のチロシンキナーゼおよび4種の阻害剤の組み合わせ用いて、Tb(III)錯体がチロシンキナーゼ阻害剤の1次スクリーニングならびにIC50の定量に有用であることを示した。この成果は、本計画の妥当性を示すものであり、当初の最終目的の一部が実現できたものと考えている。また、本錯体がキナーゼのみならずホスファターゼの阻害剤のスクリーニングやキナーゼ・ホスファターゼ共存条件においても有効であることが明らかとなった。これは、最終目的であるタンパク質などを基質とする複雑な系でのチロシンリン酸化の検出に関しても、本錯体からの発光を利用した系が有望であることを示す重要な成果である。 一方、オリゴペプチド配位子を利用したタンパク質のチロシンリン酸化の検出の系に関しては、当初計画していたチロシンのリン酸化に発光応答するオリゴペプチド-Tb(III)錯体の構築が非常に困難であることが明らかになり、今後の推進方策に示すようなタンパク質に対してTb(III)錯体を化学修飾する系への研究計画の変更を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画に記載のように、Tb(III)錯体を利用したチロシンリン酸化のリアルタイム検出に関して、タンパク質を対象とした系へと発展させる。当初検討していたオリゴペプチド配位子の系に関しては、NMR等の分光学的な解析からTb(III)とオリゴペプチドとの結合定数等を考慮すると実現が困難であることが予想される。そこで、見出したTb(III)錯体で化学修飾されたタンパク質を作成し、タンパク質中の特定のチロシン残基のリン酸化をTb(III)錯体からの発光によりリアルタイムで観測する検出系の実現を目指す。当初の研究計画とはやや異なるものの、リン酸化チロシンのリアルタイム検出の手法としては非常に有用であると考えている。 また、平成24年度に見出したように、Tb(III)錯体はホスファターゼが共存する系においてもリン酸化チロシンの検出や定量に有効である。このことはTb(III)錯体-リン酸化チロシン間の相互作用は、ホスファターゼ-リン酸化チロシン間の相互作用より相対的に弱いことを示している。したがって、Tb(III)錯体とチロシン残基がリン酸化されているタンパク質が共存している状況において、より強くリン酸化チロシンと相互作用するタンパク質を加えた場合に、そのTb(III)錯体からの発光強度が減少することが予想される。このことは、見出したTb(III)錯体が、あるタンパク質中のリン酸化チロシンを認識し、これと相互作用するようなタンパク質やペプチドのスクリーニングに有用で可能であることを示している。本検出系に関しても、Tb(III)錯体の有用性、検出系の妥当性に関して検討する。 もちろん、上述の研究と平行してTb(III)錯体の配位子の最適化を行い、より高機能を有する錯体の探索を継続する
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度はタンパク質に関する実験を主として実施するため、タンパク質の調製・精製に必要なキット類、電気泳動関連試薬、HPLCカラムなどの物品購入費として使用する予定である。また、これまでの成果を発表するために要する費用に関しても計上している。また、本年度中に使用予定の研究費にわずかの残額が生じたが、これはTb(III)錯体のタンパク質とのコンジュゲート化に関しての研究状況にやや遅れが生じたためである。したがって、平成25年度は、当初の研究計画達成のために必須であるタンパク質やキナーゼ・ホスファターゼ等の酵素の購入・精製にかかる費用が比較的高額になることが予想されるため、残額に関しては平成25年度に予定している費用と合わせて消耗品の購入に充てる予定である。
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