2012 Fiscal Year Research-status Report
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23510278
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
平竹 潤 京都大学, 化学研究所, 教授 (80199075)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 文太 京都大学, 化学研究所, 助教 (10544637)
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Keywords | ヒトアスパラギン合成酵素 / 遷移状態アナログ阻害剤 / 化学療法 / アシル活性化酵素 / アシルアデニル酸中間体 / アデノシンミミック |
Research Abstract |
ヒトアスパラギン合成酵素(hAS) の反応機構にもとづき、新たな遷移状態アナログとして N-adenosylsulfamidoyl sulfoximine 類の合成を行った。これらの化合物は、アニオン性の 5'-リン酸基の代わりに中性の 5'-adenosylsulfamido 基を有し、細胞透過性のすぐれた遷移状態アナログとして機能することを期待したものであったが、予想に反してその阻害活性 Ki = 10 μM 程度にすぎなかった。このことから、hAS は、AMP 部分の5'-リン酸基の負電荷を厳密に認識しており、ここに負電荷を有するような阻害剤の設計が必須であることがわかった。そこで負電荷を導入するため、5’メチレンにカルボニルを導入し、リボース環が開環したアデノシンアナログを合成し、N-アシルスルファミド結合で Asp のβ-スルホキシミン誘導体に結合させた N-acylsulfamide 類を合成した。その結果、この化合物は hAS を時間依存的に阻害する活性を示し、その阻害定数 Ki = 0.2 - 0.5 μM であった。この構造は、ウイルスの逆転写酵素の阻害剤となる開環型核酸アナログの acyclovir と共通した骨格であり、hASにおいてもこの阻害剤デザインが適用できることを示した意義は大きい。それとともに、hASと反応機構を共有する多くのアシル活性化酵素(脂肪酸 β-酸化系のアシル-CoA リガーゼ、植物二次代謝産物生合成の 4-coumarate:CoA ligase、ホタルルシフェラーゼ等の酵素)の阻害剤設計においても、アデノシン部分の構造展開に有望な知見をもたらした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒトアスパラギン合成酵素(hAS) の反応機構にもとづいて新たな遷移状態アナログ阻害剤の合成を行い、hAS が、AMP 部分の5'-リン酸基の負電荷を厳密に認識しており、ここに負電荷を有するような阻害剤の設計が必須である知見を得た。これをふまえ、同様のsulfamido 基を有し負電荷を生成するN-アシルスルファミド結合で Asp のβ-スルホキシミン誘導体に結合させた N-acylsulfamide 類の合成に至り、強い阻害活性を示す化合物を得た。 抗ウイルス薬の acyclovir 類似の構造をもつ開環型アデノシンアナログが hAS のアデノシン結合部位に結合することをはじめて示したものとして価値がある。今後の hAS 阻害剤設計において、アデノシン部分の改変に重要な知見をもたらしたばかりでなく、hASと反応機構を共有する多くのアシル活性化酵素(アシル-CoA 合成酵素、 4-coumarate:CoA ligase 等のCoA チオエステル合成酵素類や、同反応機構をもつルシフェラーゼ類)の阻害剤設計においても、アデノシン部分の構造展開に有望な知見をもたらした点は重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒトアスパラギン合成酵素の阻害剤設計で得られた知見を、反応機構が類似の他の酵素に広げ、acyclovir 類似の開環型アデノシンミミックを用いる本阻害剤設計概念が、反応機構を共有する他の酵素についても適用可能であることを示す。これにより、多くの重要な薬物標的となる酵素群に対し、ドラッグライクな構造をもつ阻害剤の設計に役立てる。一方、オリジナルの N-adenylated sulfoximine 1 をリガンドとして、ヒトアスパラギン合成酵素との複合体を作成し、X線結晶構造解析による立体構造の解明を目指す。この研究は海外の連携研究者との共同研究になるため、酵素ー阻害剤複合体結晶作製のための阻害剤の供給を主として担う。酵素の立体構造をもとに、阻害に重要なコア構造(pharmacophore)を維持しながら親水性官能基やアデノシン部分をよりドラッグライクな構造へと変換するための分子設計を行う。特に、ATP 依存性の多くの酵素(キナーゼ類、アミノアシル tRNA 合成酵素、ルシフェラーゼなど)は、共通してAMP 結合部位を有しているため、hAS に対する選択性を上げ、健常細胞に対する毒性を軽減する意味でも、よりドラッグライクな AMP ミミックの開発は必須である。また、このようなAMPミミックは、他のATP依存性の重要な酵素に対する阻害剤の基本設計としても重要で、このための知見を得ることに注力する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は海外の研究グループとの共同研究であり、hAS に対する阻害活性およびMOLT-4細胞を用いた細胞増殖阻害試験、細胞死誘導活性などの生化学的実験は先方が分担し、我々のグループは化合物の設計および合成を担当する役割分担で進める。そのため、次年度も有機合成主体の研究を推進する。したがって、研究費は主として合成用試薬類、溶媒、ガラス器具、精製用シリカゲル、MPLCカラム等の消耗品に使用することとし、合成研究には、既存の装置、設備備品を使用するため、新たな設備備品は申請しない。
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Research Products
(3 results)