2012 Fiscal Year Research-status Report
タンパク質SUMO化を標的としたケミカルバイオロジー研究
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23510288
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
伊藤 昭博 独立行政法人理化学研究所, 吉田化学遺伝学研究室, 専任研究員 (40391859)
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Keywords | SUMOylation |
Research Abstract |
細胞のがん化におけるタンパク質SUMO化の役割を、ケミカルバイオロジー的手法を用いて明らかにすることを目的とし、平成24年度は以下の3点について研究を推進した。 1. SUMO E2阻害剤spectomycin B1の抗がん活性。SUMO E2阻害剤として同定したspectomycin B1処理あるいはSUMO E2ノックダウンはホルモン依存的な乳がん細胞の増殖を抑制することを明らかにし、spectomycin B1のようなSUMO E2を阻害する小分子化合物は抗乳がん剤として有望であることを示した。さらにspectomycin B1をベースにしたより強力なE2阻害剤の開発に向けて、前年度に引き続きspectomycin B1の生合成を試みた。 2. 新規SUMO化阻害剤の探索。ハンカチノキの葉の抽出物から単離したエラグ酸がSUMO化阻害活性を有することを見出した。エラグ酸固定化ビーズを用いたpull down実験等により、エラグ酸はE2と直接結合し、E2の活性を抑えることにより、タンパク質SUMO化反応を阻害していることが示唆された。加えて、昨年度実施したインシリコスクリーニングより得られた候補化合物について、SUMO化阻害活性を検討した。その結果、SUMO E1を標的とした化合物について、新規構造を有する阻害剤を複数得ることが出来た。 3. 脱SUMO化酵素SENP阻害剤の探索。前年度得られたSENP1阻害剤候補について、FRETを応用したSENP1活性測定系を用いてIC50値を算出し、IC50値が10 μM以下の化合物を複数同定した。その中からパパインやトリプシンなどの他のシステインプロテアーゼを阻害せず、SENP1に選択的な阻害活性示す化合物を複数見出した。加えて、インシリコスクリーニングを実施し、SENP2阻害活性を有する複数のヒットサンプルを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、SUMO化を制御する化合物を探索・同定し、それらを用いて特に細胞のがん化におけるタンパク質のSUMO化を明らかにすることである。本研究目的を達成するためには、特異的で強い阻害剤の同定が重要となる。平成24年度においては、前年度SUMO E2阻害剤として見出したspectomycin B1が、ホルモン依存的な乳がん細胞の増殖を抑制することを見出し、SUMO E2は乳がん治療における分子標的になり得ることを示すことが出来た(投稿中)。加えて、in situ細胞ベースのアッセイ系およびインシリコスクリーニングを駆使して、新規構造を有する複数のSUMO化、脱SUMO化阻害剤の取得にも成功した。植物抽出液からはポリフェノールであるエラグ酸の新規生理活性としてSUMO化阻害活性を有することを見出し、さらにSUMO E2が標的であることを明らかにすることが出来た。SUMO E1阻害剤については、インシリコスクリーニングを用いて、複数の新規構造を有する化合物を同定し、一部は論文として成果発表することが出来た。脱SUMO化阻害剤についても複数の新規構造を有する化合物の取得し、SENP1阻害剤についてはIC50値が1 μMを切る化合物を同定に成功し、がん細胞におけるSENP1の役割を調べるための有用なツール化合物を取得出来たと思われる。以上から、初予定していた目標については、概ね達成することが出来たと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞のがん化におけるタンパク質SUMO化の役割を、ケミカルバイオロジー的手法を用いて明らかにすることを目的とし、引き続き以下の研究を推進する。 1. SUMO E2阻害剤spectomycin B1をベースにした阻害剤の開発。乳がん以外にSUMO E2が抗がん剤の標的となるがん種を同定するため、SUMO E2 siRNAを用いてSUMO E2ノックダウン依存的に増殖が抑制されるがん種を、30種類以上から成るがん細胞パネルを用いて検討する。前年度に引き続きSpectomycin B1の全合成を試みる。加えて、モデリングから予想されるspectomycin B1とSUMO E2の結合様式を、変異体等を用いて実験的に検証し、spectomycin B1をベースにしたより強力なE2阻害剤の開発に向けて有益な情報を得ることを目指す。 2. 新規SUMO化阻害剤の開発。前年度に引き続き、NPDepoからin situ SUMO化アッセイあるいはインシリコスクリーニングによって得られたヒット化合物について、IC50値の算出、in vivo阻害活性、抗がん活性等を検討し、新規構造を有する有用なSUMO化阻害剤の取得を目指す。 3. タンパク質脱SUMO化酵素SENP阻害剤の開発。前年度得られたSENP1阻害剤について、抗がん活性について検討する。SENP1は低酸素応答転写因子であるHIF-1αの活性に重要であることが示唆されているので、がん細胞の低酸素応答における阻害剤の影響を中心に解析する。加えて、昨年度インシリコスクリーニングによって、得られたSENP2阻害剤候補について、IC50値の算出、in vivo阻害活性、選択性、抗がん活性等を検討し、新規SENP2阻害剤の取得を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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