2012 Fiscal Year Research-status Report
外来種によるオオサンショウウオの遺伝子汚染の実態把握
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23510294
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松井 正文 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (40101240)
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Keywords | オオサンショウウオ / 中国産 / 外来種 / 遺伝子判定 / 交雑 / マイクロサテライト |
Research Abstract |
今年度は、昨年度までの鴨川水系(賀茂川本流)、高野川水系(高野川)、桂川水系(桂川下流部、清滝川、上桂川、田原川)に加え、由良川水系(由良川、畑川)でも野外調査を行った。これに、市民の通報により京都市に保護された個体も加え、延べ90個体(孵化幼生5個体を含む)のオオサンショウウオを確認し、半導体チップ読み取りによる判別によって、これらのうち83個体(孵化幼生個体を含む)が新規確認個体であると判定した。 昨年度に開発した核遺伝子由来のマイクロサテライト領域(単純反復配列:SSR)4遺伝子座は、エタノール保存組織の使用が可能で、両親由来の核DNA情報を与えてくれ、かつ判別精度も高いことが期待されたが、事実、雑種判定に有効な遺伝子座を複数発見でき、ミトコンドリアDNA解析用と同様の組織試料を用いて確実に素早く、検体が雑種か純粋種かを判定することを可能とした。 しかし、雑種であることが判明したものについて、さらに詳しい解析を行い、雑種の世代数、両親の遺伝型の推定を行うには必ずしも十分ではなかったので、今年度は新たに17遺伝子座を開発し、昨年度と合わせた計21遺伝子座のうち、特に有効と思われる15遺伝子座を用いて、90個体の遺伝子鑑定を行なった。 その結果、90個体中23個体 (25.6%) が純粋な日本産、4個体が中国産 (4.4%)、2個体が中国産または雑種 (2.2%)、61個体が雑種 (67.8%) と判定された。中国産と雑種の間で判定にあいまいさが残る個体が2個体みられたものの、日本産は99~100%の事後確率で明瞭に判別できた。そして、雑種の中でも雑種第1代 (F1:日本産と中国産の間の子)、雑種第2代 (F2:F1同士の間の子)、日本産との戻し交雑 (日本産とF1の子)、中国産との戻し交雑 (中国産とF1の子)をかなりの部分まで識別できることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、昨年度に開発したマイクロサテライトに加え、新たなマイクロサテライトを開発し、多数の遺伝子座に基づく、より正確な雑種判定を可能としたことは極めて大きな成果である。この新たに開発したマイクロサテライトにより、これまで以上に効率よく雑種推定が可能となった。今回の遺伝子鑑定ではmtDNAのシーケンスを省略し、マイクロサテライトの15遺伝子座のみを用いたが、純粋な日本産をその他 (外来種および外来種との交雑に由来する個体) から極めて明確に識別できた。マイクロサテライトの解析はミトコンドリアDNAのシーケンスに比べると迅速かつ簡便におこなうことができるため、今後は捕獲した個体が日本産であるか否かを素早く、正確に鑑定することが可能になるだろう。 更に新たに開発したマイクロサテライトにより戻し交雑など、雑種の内訳の識別もかなりの精度で可能になり、雑種個体群の詳しい履歴を追跡する道が開かれた。このことから、今年度の成果は雑種蔓延の歴史やルートを探る上でも画期的なものと言える。 毎年のことながら、オオサンショウウオの野外調査は、天候に大きく左右される。今年度は調査予定日直前に豪雨があり、水量が急増して調査がほぼ不能になるなどの事態が重なり、捕獲解析できた個体数は前年度を下回った。その一方で、京都市や京都府との連携関係も確立でき、市民が発見した個体についても調査が可能となったことから、実際に遺伝子鑑定できた個体数は決して少なくなかった。また、それでなくとも、野外調査は夜間に河川内において行なわれるために常に危険を伴い、効率の悪い調査になりがちである。しかし、本年度は過去に調査されたことのない京都市域外の水系にまで調査範囲を拡げて、事故もなく無事に調査を終えて十分な成果をあげてきたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように極めて迅速かつ正確な遺伝子鑑定が可能となったことから、今後はさらに調査範囲も拡大し、更に多くの個体の雑種判定を進めたいところではあるが、次年度は、本課題遂行の最終年度に当たり、これまでの総纏めをする必要がある。このため、むやみに野外調査の範囲や規模を拡大することはできない。それは調査に多大な時間や人員を要することとも関連している。また、マイクロサテライトの開発はほぼ完全に成功し、効率よく精度の高い雑種判定が行なえるようになったので、すぐにより多くの遺伝子座を開発する予定はない。 本課題の最終目的は賀茂川全域についてオオサンショウウオの雑種化の実態を明らかにすることにあったので、今後はそうした視点にしぼった調査を行いたい。たとえば、過去に蓄積した資料のうち、まだ詳細なマイクロサテライト解析の行われていないものについて再解析を行い、雑種の割合とその内容を更に正確に推定し、経年変化推定も試みたい。また、本年度着手した、京都府下全域の流域については、雑種の成体が発見された地点にしぼり、その周辺の流域を精査して雑種の分布範囲の特定を行いたい。 言うまでもなくオオサンショウウオ類は保護・保全対象種であり、野外で捕獲された日本産は文化庁、雑種、中国産は環境省の管轄下にあって、天然記念物法や種の保存法に照らした扱いが必要である。ことに雑種と判定された個体の処置について関連する省庁や自治体に諮って対応策を講じる必要のあることは前年度からの課題である。この問題についても、これまでにかなり進展があったもののまだ十分な状態ではない。本年度も調査された水系において捕獲された個体のほとんどは雑種と判定され、それらは理想的な収容数を超える勢いで一時飼育施設に収容されている。これらの処置について、管轄部局である環境省ともより緊密な連絡をとり、早急に検討して行きたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
学会における成果公表のための旅費はこれまでとほぼ同様である。また、物品や消耗品の多くはマイクロサテライトの実験に必要なものであり、本年度の使用結果から、あらかじめ必要量の分かるものなどは多めにまとめて発注することで安く購入したり、工夫したりして有効に経費を使用する予定である。 また調査用具(特殊な大型タモ、防水懐中電灯、ウエットスーツなどの河川調査用具一式)は年間を通じた調査で破損して長くは使えない。必要に応じて随時新調して行く予定である。夜間調査では防水懐中電灯やヘッドライトなどの照明装置が必要なので、それらに用いる乾電池等の消耗品も年間を通じて必要になる。調査には多くの道具の運搬が必要であり、また捕獲されるオオサンショウウオは多くは全長1mを超えるために車が不可欠である。可能な限り研究代表者の所属先の公用車を用いるが、使えない場合はレンタカーも必要になる。また公用車を使用できた場合でもガソリン代は必要になる。 謝金は、野外調査や実験補助に関して支払われる。特に次年度は、最終年度に当たり、過去年度に得られた多くのサンプルのマイクロサテライト解析依頼をする予定なので、実験補助の時間数も増え謝金額の占める割合が大きくなる可能性が極めて高い。 その他については、公表する論文の英文校正料金や別刷代金が多くを占める予定である。次年度も少なくとも今年度と同様額は支出されると見込んでいる。
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