2013 Fiscal Year Research-status Report
哺乳類精子の真空乾燥及び室温保存法の開発:究極の長期室温保存法を目指して
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23510299
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
多田 昇弘 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50338315)
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Keywords | 精子 / 哺乳類 / マウス / 真空乾燥 / 室温保存 / 長期保存 / 顕微授精(ICSI) / 資源保存 |
Research Abstract |
室温保存したマウス精子は、凍結保存及び凍結乾燥に比べ、液体窒素や低温下で保存する必要がなく、輸送する際も特別な保存容器や温度調節も不要であり、容易に輸送が可能である。我々は、以前より、マウス真空乾燥精子の室温保存法の開発を行ってきた。そこで、本研究では、近交系マウスのC57BL/6J、BALB/c、C3H/HeNおよびDBA/2Nマウス精子をトレハロース (Tr.)、緑茶ポリフェノール (epicatechin:EC)およびアスコルビン酸 (Asc.)を含むTris-EGTA液に懸濁させ、真空乾燥した後、室温保存し、系統間における復水後の受精能および発生能を確認した。 C57BL/6J、BALB/c、C3H/HeNおよびDBA/2Nマウスの精巣上体尾部より採取した精子を、α-hemolysin処理した後、保存液 (1.0M-Tr /Tris-EGTA-100μM EC+100μM Asc.)に懸濁し、50μlずつ2-Dチューブに移した。これらの2-Dチューブをデシケーター内に移し、一晩、室温下にて真空乾燥を行った後、7日間常圧下にて室温保存した。保存後、精子を復水させ、BDF1雌マウスより採取した未受精卵を用いてICSIを行い、受精率および胚盤胞への発生率を確認した。 7日間室温保存したC57BL/6J、BALB/c、C3H/HeNおよびDBA/2Nのマウス精子の受精率は、各々95.8%、100%、91.7%および90.0%であった。また、2-細胞期胚への発生率は、各々95.7%、96.9%、100%および94.4%であり、受精能および2-細胞期胚への発生率では、系統間に有意な差は認められなかった。一方、胚盤胞への発生率は、各々13.0%、59.4%、50%および5.6%であり、BALB/cおよびC3H/HeNマウスの室温保存精子の胚盤胞への発生率は比較的良好であったが、C57BL/6JおよびDBA/2Nマウス精子では低値を示し、系統差が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今までの本研究で見出された至適な保存液(1.0M トレハロース /Tris-EGTA-100μM エピカテキン+100μM アスコルビン酸)を用いて、真空乾燥精子(BDF1マウス)の1年以上の室温保存に成功し、これらの精子から正常な産仔が得られることを示すことができた。今年度は、同様の保存液を用いて真空乾燥・室温保存後の精子の受精能及び発生能を各近交系マウスについて確認した。その結果、真空乾燥・室温保存後の精子の受精能及び2-細胞期胚への発生能には、系統差は認められなったが、胚盤胞への発生能に差が認められた。この系統差は、精子の真空乾燥・室温保存による影響なのか、各系統の精子が、本来、有している発生能に起因しているのか不明な点も多い。また、各系統の真空乾燥・室温保存精子を同系マウス卵子に顕微授精し、同様に受精能を確認すると共に、2-細胞期胚を移植してin vivoでの発生能を確認した。その結果、各系統共に、胎児までの発生率が極めて低く、系統間での真空乾燥・室温保存精子の発生能を確認することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
各近交系の真空乾燥・室温保存精子の顕微授精(ICSI)後の受精能には、差が認められないが、胚盤胞への発生能に差が認められたことについて、今後は、その再現性を確認する必要がある。即ち、引き続き、各近交系の真空乾燥・室温保存精子と同系卵子との間でICSIを行い、受精能及びin vitro, in vivo 発生能を確認する。また、各近交系の真空乾燥・室温保存精子について、8-ヒドロキシデオグアノシンを測定し、活性酸素のレベルを間接的に評価することにより、系統差との関連性を明らかにする。 今までの結果から、C57BL/6Jマウスの真空乾燥・室温保存精子は、ICSI後の胚への発生能が、他の系統と比べ、低いことがわかった。本系統は、トランスジェニック/ノックアウトマウスの遺伝的背景になっていることが多いので、これらのマウス精子の保存に、真空乾燥・室温保存法を適用することを考え、更に至適な条件を検討する予定である。 即ち、トレハロースを含む保存液をベースにして抗酸化剤の添加による精子の真空乾燥・室温保存における効果を比較検討する。また、真空速度及び保存容器についても検討する予定である。更に、2年以上、室温保存している真空乾燥精子について、復水後、ICSIを行うことにより、受精能及びin vitro, in vivoの発生能を確認すると共に、得られた産仔について正常性を確認する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
トレハロース等を含むTris-EGTAで真空乾燥し、室温保存したマウス精子で、最長1.5年の室温保存後も、顕微授精/胚移植により正常な産仔が得られた。しかし、室温保存後の精子由来胚の発生能は、今だ、低いことから、更に、乾燥・保存条件を検討し、2年以上の室温保存を試みたい。なお、当初、予定していたマウスの利用数の減少及び受託を実施しなかったため、未使用金が生じたので、これを次年度の研究費に充てたい。 研究計画当初の目標であった「真空乾燥したマウス精子で少なくとも1年間の室温保存が可能な諸条件を明らかにする」ことは達成できた。しかし、前述したように真空乾燥・室温保存精子の顕微授精後の発生能が系統により、今だ、低いことから、更なる検討が必要である。従って、次年度でも引き続き未使用金をマウス代、試薬代、チューブ代、保存精子の活性酸素レベルを評価するキット、抗酸化測定キット及び研究成果発表のための学会参加旅費等に充てる。
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Research Products
(2 results)