2013 Fiscal Year Research-status Report
長期的シカ生息域における照葉樹林の生物多様性再生と外来種拡散に関する研究
Project/Area Number |
23510300
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Research Institution | Osaka Sangyo University |
Principal Investigator |
前迫 ゆり 大阪産業大学, 人間環境学部, 教授 (90208546)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神崎 護 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70183291)
鈴木 亮 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (90418781)
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Keywords | 多様性劣化 / 照葉樹林 / 高密度シカ個体群 / シカ柵 / 林冠 / 可塑性 / 外来種 / 適応的管理 |
Research Abstract |
春日山原始林にはコジイ、ツクバネガシ、アカガシ、ウラジロガシ、イチイガシといった常緑性のブナ科の照葉樹林が成立するが、シカの長期的影響により、後継樹の定着阻害、多様性劣化、外来樹木の拡散が生じている。本研究課題に関連して春日山原始林の生態系に関する著書(前迫編著、2013.ナカニシヤ出版)をまとめた。本研究の主要課題はシカ柵実験区設置、全域現地踏査および空中写真によるGIS解析によって、多様性再生と外来種拡散に対する順応的・適応的管理を提案することである。 2007年に外来樹木とシカの2要因を検証する実験区を7カ所に設置、7年間について、外来種2種(耐陰性の高いナギと先駆種ナンキンハゼ)のクリッピングとシカ排除の効果を検証することができた。シカを排除した場合にも、光要因が不足すると、十分な多様性回復が認められないことが検証された。そこで2012年に倒木によって生じた大ギャップにシカ柵実験区をあらたに設置して森林動態および多様性回復の実験を行った。林冠による生物多様性の反応は顕著で、まず,草本類のバイオマスは増加した。しかしギャップには風散布型樹木が発生するが、ブナ科実生の定着は確認されなかった。一方、疎開林冠において母樹が存在すると,ブナ科樹木の定着が顕著であった。 イチイガシの分布調査とGIS解析によって、ナギとの関係性を解析した。あらたに4カ所に林冠タイプ別の実験区にカメラトラップを設置し、シカの森林利用と多様性の関係性についても解析した。長期的に高密度化したシカは、不嗜好植物のクリンソウやミヤコアオイに対する採食にも及んだ。化学的防衛が突破された種は可塑性を十分に発揮できなかったと考えられるが,まだ多くの課題を残している。本研究課題の多様性再生と外来種拡散の管理は,シカの排除だけではなく,光要因を勘案したものでなければ順応的管理ができないという結果が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は大きく、以下の研究項目から構成され,遂行した。 1.ギャップ、ギャップ辺縁、疎開林冠、閉鎖林冠といった林冠タイプ別のシカ柵設置による順応的・適応的管理手法に有効な木本実生および草本類を対象に解析する。2.不嗜好植物に対する採食影響と植物の関係性について,林床植物の繁殖、サイズから可塑性の検証を行う。3.イチイガシの個体群構造・分布とナギの侵入との関係性を導き出す。4.シカの森林利用をカメラトラップによって評価した。 本研究期間は3年である。シカ柵設置は2年を経過し、前回のシカ柵設置から7年を経過している。これらの解析データは膨大であり、現在、最終的な解析は若干残しているものの、当初の調査は行っており、ほぼ順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画はほぼ順調であり、解析を進めて論文化をはかっている。また本研究で得られたシカ柵に関する知見は、著書(編者、出版社決定)にまとめるために執筆している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
シカ柵実験区のネット、支柱などの物品が想定していたよりもリーズナブルに購入できた点、見込んでいた謝金よりも若干抑えられた点、学会発表は行ったが、学内経費(学会発表費用)を使用したことなどにより、若干の余剰が生じた。 3年間の調査から、クリンソウと可塑性の問題、多様性劣化とブナ科樹木の分布と外来種拡散の問題など、多くの興味深い課題を見いだしているため、これら問題の解決のため、調査補助および試薬などの物品購入に充当させて、あらたな問題解決をはかりたいと考えている。
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Research Products
(11 results)