2011 Fiscal Year Research-status Report
台湾家族における文化資本の継承と変容:戦前・戦後を跨ぐオーラル・ヒストリーの構築
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23510308
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
洪 郁如 一橋大学, 社会(科)学研究科, 教授 (00350281)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 台湾 / オーラル・ヒストリー / データベース / 学歴 / 家族戦略 / 日本教育 |
Research Abstract |
1.具体的内容本研究は、戦後台湾の脱植民地化過程における社会変化への対応について、文化資本をめぐる「家族戦略」の観点から考察を加えるものである。平成23年度では、第一に、戦前日本教育歴の非保有者を対象として予備調査を実施した。第二に、文献資料収集とデータベース化を行った。これら二本の柱を中心として、本研究の基礎作業はほぼ計画通りに遂行された。(1)日本教育歴の非保有者の中からインフォーマントを選定し、彼/彼女らに対して初歩的な予備調査を完了した。平成23年度は4月、9月、12月、計三回の現地調査を行い、台湾北部(台北市)ではXF、JJ氏、中部(台中市、彰化県)ではLW、HC、CY、YT氏の合計6家庭を対象に、家族史の輪郭を把握するための聞き取り調査を実施し、ライフ・ヒストリーにおける語りの音声データを収集することができた。(2)文献資料データと聞き取り関連データのそれぞれについて、データベース化を行った。文献資料については、台湾で出版された回想録と家族史の記録を収集した。聞き取り関連データについて、以下のような三段階を経て基礎的なデータベース化を行った。(1)三回の海外聞き取り調査で収集した音声データをデジタル化し、インフォーマント別に分類した。(2)テープ起こしを行うと同時に、中国語あるいは台湾語から日本語への翻訳を行った。(3)聞き取り調査において把握した家系図とインフォーマントの基本情報をエクセル・ファイルの形で整理、保存した。2.意義と重要性日本教育歴非保有の台湾人家庭のデータ蓄積に関して、平成23年度の実績は大きな意義を持っている。日本統治時期の台湾人非識字層の家族史は、従来の先行研究では空白であった。戦後から現在に至るまで台湾社会の大多数を占めるのは、日本教育歴の非保有者出身の民衆層であるから、本研究は近現代台湾社会を理解するための重要な貢献となろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度では、第一に、聞き取りの予備調査実施、第二に文献資料収集とデータベース化の基礎作業はおおむね計画通りに進展している。1.聞き取り予備調査については、インフォーマントの積極的な協力を得た。台湾の北部では予定通りに2家族を選定し、中部では当初計画を上回る4家族を確保できた。長時間のインタビューにも関わらず、家族史、ライフ・ヒストリーを詳細に語ってくれたインフォーマントが多かった。そのなかで、さらに姻戚や同僚の家族を紹介してもらう承諾も複数得ることができた。南部で訪問を予定していたインフォーマントが体調不良のため、当該家族の聞き取りは平成24年度の実施計画に組み入れることにした。2.データベース化について、(1)既存の文献資料の収集についてはほぼ完了し、現在データ入力のフォーマットについて研究協力者と考案中である。(2)聞き取り調査関連部分は、既に音声のデジタル化、和訳、文字化を完了した。(3)写真などの影像資料や家系図のデータベース化も完了した。平成23年度に調査・研究は以上のように順調に進行した。これらの成果は平成24年度以降の展開にとり重要な土台となる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究の推進方策は、第一には聞き取り調査の本格的実施と、第二にはデータベース化作業の継続である。1.聞き取り調査の本格的実施について、日本教育歴「非保有者」と「保有者」二つの部分に分けて進めていく予定である。(1)予備調査を行った日本教育歴「非保有者」に対し、家族単位の聞き取り調査を本格的に展開する。台湾北部、特に中部を中心に選定された6家族を対象に、より詳細なインタビューを行うと共に、南部でもインフォーマントを獲得する。(2)日本教育歴「保有者」について、中等教育および初等教育経験を持つ者を対象に、「戦後」経験についての追跡調査を行う。2.データベース化作業の継続。(1)聞き取りの結果は、個人別に音声資料として保存する。(2)テープ起こし、和訳を経たうえで電子データ化する。(3)インフォーマント別の基本情報をエクセル・ファイルで整理する。(4)家族関係を示す家系図のデータベース化を行う。(5)回想録・家族史を含む文献資料の継続収集については、台湾大学歴史学科の顔杏如教授より本課題の研究協力者となることの承諾を得た。現地の資料収集は台湾大学図書館を中心としてさらに広げていく予定である。平成25年度の研究の推進方策は、第一には聞き取りの追加調査、第二には理論構築、第三には学術界、教育および社会への還元である。1.聞き取り調査の不明点について追加調査を実施する。2.分析と比較による理論構築。平成24年度までのデータベースに基づき、戦後の脱植民地化過程における社会変化への対応について、理論化の作業を行う。3.考察結果をまとめた論考を、国内外の学会・研究会での発表を経た上で執筆する。学会誌、学術誌などへの寄稿、また書籍の形での刊行、さらに教育プログラムを通じた研究成果の社会的還元も行っていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の研究費支出残額に71円の端数が生じたが、平成24年度の予算と合わせて執行する予定である。1.調査旅費(約42万円):平成24年度には三回の台湾現地調査(2012年4月、8月、2013年3月)を実施する予定である。インフォーマントの日程に合わせながら、北部(台北)、中部(台中・彰化)、南部(台南・高雄)間を鉄道で移動して聞き取りを行う。2.物品費(約44万円):聞き取り調査に必要なICレコーダー(windows7に対応)、ノートパソコン(軽量機種)、デジタルカメラを購入する。データベース構築に必要なソフトウェア、スキャナー、レーザープリンターを増設する。3.謝金(約29万円):(1)現地アルバイト謝金:資料収集の補助作業員として台湾大学歴史学研究科博士課程の院生1名、また聞き取り調査の補助作業員として台湾政治大学メディア研究科の大学院生1名を雇用する予定である。(2)データベースの構築作業については、資料整理、テープ起こし、和訳、入力の研究事務補助員3-5名を雇用する予定である。4.その他(約5万円):打ち合わせ会議、台湾現地インフォーマントとの通信費、複写費も必要である。
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Research Products
(4 results)