2012 Fiscal Year Research-status Report
上座仏教徒社会の国家と地域の実践に関する研究―現代ミャンマーを中心に
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23510311
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小島 敬裕 京都大学, 地域研究統合情報センター, 研究員 (10586382)
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Keywords | 地域研究 / 上座仏教 / ミャンマー / 文化人類学 |
Research Abstract |
本年度は、前年度に続き、「民主化」以降のミャンマーにおける上座仏教関連の政策に注目するとともに、地域におけるその実態の解明に重点をおいた。 まず宗教政策の実態に関して、シャン州の山岳少数民族地域で実態調査を行った。その結果、非仏教徒少数民族への仏教布教政策や、僧侶教育学校への支援など前軍事政権からの仏教関連諸政策は、「民主化」以降も継続していることが確認された。その一方で、軍事政権下で盛んに行われていた仏塔や大仏の建立は、新政権下ではほとんど行われていないことも明らかになった。こうした変化の要因に関しては、未解明の部分も多いが、テインセイン大統領は仏教僧がイスラム教徒を非難するような発言を控えるべきだとする声明も出しており、新政権の成立以降、非仏教徒にも配慮し、安定した国家体制を築こうとする姿勢に転換しているものと推測される。 一方、ミャンマー国内の各地域の実践に関しては、シャン州北部におけるティーボー・チャウッメのタイ族村落や、ナムサンのパラウン族村落で調査を実施した。その結果、当該地域では近年まで在家の誦経専門家が地域の仏教実践において重要な役割を果たしていたことが判明した。しかし特に都市部においては、1980年代以降の交通網の発達により、ミャンマー中央部で教理学習を受ける出家者が増加し、その結果、在家者よりもむしろ出家者が実践の中心を担う傾向が強くなっている。一方、村落部では、仏教実践において重要な役割を果たす在家信者が現在でも重要な役割を担っていることが明らかになった。このことは、研究代表者が注目してきた中国雲南省徳宏州における在家信者主導の実践形態が、決して特殊な事例ではなく、特にシャン州北部では一般的な傾向であった可能性が高いことを示唆しており、出家者の存在を不可欠としてきた従来の上座仏教徒社会研究を相対化するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ミャンマーにおける民主化運動以降の宗教政策に関しては、上述したように、特にシャン州においてフィールドワークを実施し、政府による宗教政策がどのように実行に移されているかについて実態を明らかにしつつある。ただし宗教政策の実態を裏付ける資料が未入手であるため、残りの調査期間で収集する必要がある。 次に、国家の制度に包摂されない地域の実践に関しては、シャン州ティーボー、チャウッメ、ナムサン、チャイントンを中心に調査を行った。その結果、特に1980年代以前の当該地域においては、研究者が中国・ミャンマー国境地域の徳宏州で実施した調査と類似する状況が存在し、儀礼において在家の仏典朗誦専門家が非常に重要な役割を果たしていたことが明らかになった。またその他の儀礼に関しても、1980年代以降に国家主導の宗教実践の標準化が進行する過程において、消失しつつある傾向にあることを明らかにした。以上の事実は、ミャンマーにおける1980年全教派合同サンガ大会議以降の宗教政策と地域における実践の関係を考察する上で非常に重要であるとともに、出家者を不可欠の存在とみなす従来の上座仏教徒社会研究に再考を促す可能性を持っている。しかし対象地域・民族の範囲がまだ限定的であるため、今後はさらに調査地域を拡大して継続する。 なお、以上の研究成果の一部は、日本文化人類学会のほか、アメリカ、タイにおける国際学会・ワークショップでも徐々に公開しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究で実施する必要があるのは、まず「民主化」以降のミャンマーの宗教政策に関する研究を行うための文献資料の収集である。昨年度までは、フィールドにおける実態調査に重点をおいたが、今年度は、フィールドワークとともに宗教省や関係図書館における文献調査も並行して行う予定である。 また上述したように、従来まではシャン州のティーボー、チャウッメ、ナムサン、チャイントンなどの地域で調査を実施してきたが、ミャンマーにおける実践の全体像を把握するためには、さらに広範な地域における調査が必要である。またシャン州に居住するシャン族、パラウン族は、在家の誦経専門家が重要な役割を果たしていることが明らかになったが、他の仏教徒少数民族に関しては、このような実践形態が存在したのか、ひき続き調査を行う。 これらの研究成果に関しては、国内の学会・研究会で発表するとともに、論文または著書として徐々に公開していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
最終年度は、宗教省書店や仏教関係図書館などを利用し、宗教関係の諸制度に関する文献資料の収集を目指すため、資料収集費がやや増加する見込みである。また収集した資料を電子化する必要があるため、そのための機材も購入する。 一方で、ミャンマー国内の他地域を中心に、可能な限り現地調査を継続する。さらに国内外の学会・研究会において研究成果を公開するため、旅費が支出の中心となる予定である。
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