2012 Fiscal Year Research-status Report
南太平洋における公共圏と親密圏の生成に関する文化人類学的研究
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23510315
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
吉岡 政徳 神戸大学, その他の研究科, 教授 (40128583)
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Keywords | ヴァヌアツ共和国 / 公共圏 / 親密圏 / カヴァ・バー / メラネシア的 |
Research Abstract |
本年度は、研究実施計画にしたがってヴァヌアツ共和国第二の都市、ルガンヴィルでフィールドワークを実施するとともに、ポリネシアの都市における状況を知るために、クックのラロトンガで調査を行った。クックでの調査は、ヴァヌアツでの調査において何がメラネシア的なのかを知るために大いに参考になった。さて、ルガンヴィルは、アメリカ軍が第二次大戦中に建設した基地を基盤として成立したキャンプ・タウンとしての性質を持っており、コロニアルタウンとして発展してきた首都のポートヴィラとは異なった都市的様相を呈している。ルガンヴィルでは、アメリカ軍が引き上げてから、メラネシアの人々が居住を始めたため、首都のポートヴィラと比べると、はるかにメラネシアン・タウンとしての様相を呈している。島単位の住み分けもポートヴィラよりも強く、より共同体の仕組みが村落に近い形で存続しているように見えるが、そこにグローバルな波が入り込むことにより、都市空間の在り方は劇的に変貌を遂げている。昨年度の実績報告書で、「アルカロイド系の伝統的飲料であるカヴァを飲ませる店、いわゆるカヴァ・バーが隆盛を極めており、それらカヴァ・バーが作り出す公共圏のあり方に注目する必要がある」と示唆しておいたが、ルガンヴィルでもそうした側面から調査を行った。同じ島の出身者が経営するバーに人々が集まる傾向が強いため、互いのひそやかな経験を共有する親密圏的な側面も同時に存在するとともに、携帯電話の圧倒的な普及で、出身の島の住人と瞬時に連絡が取れるようになったため、都市的な状況と村落的な状況が極めて密に共有されるような状況が出現している。そして、カヴァ・バーにおける親密圏と公共圏の絡み合いが、さらに、出身の村落である「共同体」と連携することで、メラネシア的な空間構成が行われていることが見えてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の目的は、南太平洋地域独自の公共圏、親密圏の在り方を解明することである。そのために、具体的にはヴァヌアツ共和国の首都・ポートヴィラと地方都市であるルガンヴィルでのフィールドワークを実施している。本年度は、メラネシア的な公共圏、親密圏のあり方を浮かび上がらせるために、まず、ポリネシアのクック諸島のラロトンガでの短いフィールドワークを行い、その対比の上で、ヴァヌアツ共和国のルガンヴィルでフィールドワークを行った。昨年実施したコロニアルタウンとしての首都ポートヴィラでのフィールドワーク、そしてポリネシア的な都市であるラロトンガとの対比の上でとらえられたメラネシアのキャンプ都市における公共圏、親密圏の在り方を研究することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、購入を予定していた物品をすべて購入し、予定していたフィールドワークも実施した。次年度は、ヴァヌアツ共和国における村落部でのフィールドワークを クを実施する。 村落は、村落共同体との関係で論じられることが多く、公共圏と相いれないものとして社会学などでは論じられてきた。しかし、ヴァヌアツでは、都市在住者は常に出身の島を明確にする必要に迫られており、都市で生まれ育ったものでさえ、どこかの島と関連付けた「身元証明」をしなければならない。たとえば、ポートヴィラ生まれであっても、親がマラクラ島出身だと、マン・マラクラ(マラクラ人)と自称、他称されるのであり、ポートヴィラ人という概念は存在しない。つまり、ヴァヌアツの都市生活は常に出身島、そして村落と切り離すことのできない状況を基盤としている。そして公共圏、親密圏なども、こうした村落共同体との関連を踏まえて考えられねばならない。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度で得られた成果をもとに、次年度は以下の計画で研究費を使用する。 1)ヴァヌアツ共和国のラガ島北部において2週間程度のフィールドワークを実施する。ポートヴィラやルガンヴィルでのフィールドワークを通じて、申請者の長年のフィールドであったラガ島北部出身の人々と交流を持ってきたが、彼らは、自らの家にいる時も、あるいは、カヴァ・バーなどで談義しているときも、携帯電話を通して出身の村落の人々と相談、連絡をきわめて頻繁にとっていることがわかった。出身地の村落との結びつきが、都市部で形成されるであろう公共圏、親密圏と関連を持ち、村落共同体と市民社会の間にある回廊を形成しているように思える。こうした視点を踏まえて、フィールドワークを実施する。 2)日本における南太平洋地域研究者らと会合をもち、南太平洋におけるグローバリゼーションの様相や、都市文化形成について議論 する。 3)公共圏、親密圏、グローバリゼーション、都市文化論に関する文献を収集する。
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Research Products
(3 results)