2011 Fiscal Year Research-status Report
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23510321
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Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
江藤 双恵 獨協大学, 国際教養学部, 非常勤講師 (50376828)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / タイ / 子育て / 家族 / 女性 / 子ども / コミュニティ福祉 / 地方自治 |
Research Abstract |
2004年までに教育省や内務省が実施してきた幼児開発プログラム、公衆衛生省や社会開発人間の安全保障省が従来実施してきた福祉サービスは、地方自治制度改革および分権化の過程で創設された基礎自治体に委譲された。農村部への子育て支援はこれらの一環で行われている。 地方自治体では教育専門職員が幼児開発プログラムを担当し、福祉的施策を包括的に担当するポストとして「コミュニティ開発専門職員」が新設された。彼/彼女らの担当事業は、経済分野と社会分野に大別できる。経済分野では所得創出プログラム等、社会分野では公的扶助等の福祉事務以外に、地域の課題に即した住民啓蒙プログラム等がある。その対象者は、高齢者、障害者、青少年、女性、機会喪失者等と規定されている。他方、女性は地方活性化のための「力」としても位置づけられている。このアンビバレントな女性の位置づけこそ、子育て支援の課題を理解する鍵である。 報告者が2006~2011年8月の期間に調査したコンケン県の9つの地方自治体の事例では、対象を女性に特化したサービスは、既存の女性グループの支援がほとんどで、一村一品製品生産グループなどへの資金提供が専らである。「女性と家族に関する優良地方自治体」(2005年~)として表彰された自治体では、DV監視プログラムを行おうとしたが、地域内に対象事例はなかったとのことだった。どの自治体でも、女性が欲しているのは収入であり、女性の状況は、青少年の非行などの深刻さに比べれば問題視されることはないという。青少年の非行は出稼ぎなどによる親の不在が最大の要因であるため、特に子育て中の母親が子どもと離れずに収入確保する道を探すことが優先されるという。また、コミュニティ内家族開発センタープログラムには、女性らの犠牲的精神による協同を評価するまなざしがあり、これによってコミュニティ福祉を実現しようとする発想が見られる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の課題は、タイにおける子育て中の人々が直面する問題を明らかにし、子育て中の人々を支援するための実践的・政策的課題を多角的に検討することにある。平成23年度中には、当初の予定通り東北地方コンケン県において、1、農村部で子育て中の人々がどのようなニーズを持っているのか、2、実際に地方自治体によって立案・運営されている「子育て支援」プログラムの現状について調査を実施した。 さらに平成24年の2月~3月に訪タイして行う予定であった北部地方の調査準備は、タイ国内で未曾有の災害が発生したため進めることはできなかった。しかし、その分これまで収集した文献やデータの分析によって本研究の分析視角の重要性を再確認することができた。特に、女性の生産役割とケア役割の両面からタイ政府の施策を分析する視角である。 タイの地方自治体によって実施されている包括的な福祉政策は、収入創出=経済的エンパワメント一辺倒だった農村女性対象の施策に、その地域で生活する女性の関心事にマッチした福祉的含意、すなわち本研究の課題に照らしていえば子育て支援の場を提供する契機となっている。家族開発センタープログラムなどの住民啓蒙事業は、子育ての悩みを相談する機会となったり、子どもとのコミュニケーションを改善するきっかけになったりしている。しかし、一方で、子育てに限らず女性のケア役割を強化しているという懸念も感じられた。 そこで、平成24年度の研究課題は、ただ単に地方を変えて事例を集めるというよりは、上記のようなプログラムが子育て中の人々に及ぼす影響についての質的研究を深めることに力点をおき、より、具体的な支援課題を導き出すことを目標としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
東北タイにおいて、地方自治体がいかなる福祉政策を実施しているか、その中で子育て支援の意味をもつ施策がどの程度行われているかということは判明したが、実際に利用者たちがそれらの施策をどのようにとらえているかについて検討する必要がある。本研究においては、農村女性は「物的資源」の活用と「犠牲的精神」の両方に関わる負担を求められているとの仮説をたて、これを検証するような質的インタビューを実施する。具体的には、これまで調査したコンケン県内の自治体を再訪問し、子育て中の女性を中心にインタビューを行う(20人程度)。 当初の予定では北部タイでも東北地方で実施している調査と同規模の調査を行う予定であり、平成23年度中に北部タイを訪問して調査準備などを行うこととしていたが、洪水などの自然災害が発生して渡航が困難であると判断した。当初計上した旅費については、その一部を資料購入代(物品費)および東北タイでの調査のための人件費に充当した。平成24年度には、繰越額68,295円を同様に資料代と人件費に充当することとし、北部タイでもチェンマイ大学女性学センター教員の協力を得て調査を実施する予定ではあるが、当初の計画よりは縮小する。すなわち、いくつかの地方自治体への訪問、担当専門職員へのインタビューにとどめ、コンケン県との著しい相違点がみつからない場合には、それ以上の掘り下げは行わないこととする。著しい相違点が見つかるなど、調査拡大の必要性が生じたときには、次年度以降の計画の中で検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1 平成23年度中に獲得した情報・データの処理と分析(平成24年4月~7月)。2、国際ジェンダー学会、東南アジア学会での報告(平成24年9月~12月)。3、第2回訪タイ(平成24年8~9月にかけて20日間):平成22年度中に選定したコンケン県内での女性が担うケアの実態(経済的基盤、負担感、共住者との分業・連帯、幼児開発センターの利用、家族開発センターへの参加、地方自治体職員、医療関係者との関わり)などに関する聞き取り調査。チェンマイ大学女性学センター教員との意見交換。およびチェンマイ県周辺の地方自治体の訪問。4、第3回訪タイ(平成25年2~3月にかけて20日間):継続調査。
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