2013 Fiscal Year Research-status Report
ブータンの民主化の実証的研究を通した個人の自由と公共性の折り合いの探究
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23510326
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
真崎 克彦 甲南大学, マネジメント創造学部, 教授 (30365837)
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Keywords | 民主主義 / 公共性 / 王政 / 国民総幸福 / ブータン |
Research Abstract |
平成25年6~7月に2度目の国政(国民議会)選挙が行われた。その結果、民主政下の初政権を担ってきたブータン調和党(DPT)に代わって、第一野党の国民民主党(PDP)が政権に就いた。調査対象地のA村の選挙区でもPDPが議席を得た。村の人たちの大半がDPTに票を投じると当初は予想されていたが、多くの人がPDP支持にまわった。全国各地の公共事業に絡んで、同党リーダーが利権を享受しているという数々のメディア報道があり、ひいては、同様の噂が村内のある事業を巡って出てしまったためであった。 この問題もあって、A村の人たちの間では、ブータンもいずれインドやネパールといった近隣諸国のように、民主政の進展とともに大物政治家の「自由」が幅を利かせるようになり、政治が民衆の手から離れたものになるのではないかと危惧されていた。ブータンがそうならないよう、また、大局的な「公共」利益が損なわれないようにせねばならない。そうした意識で投票したとのことである。 他方、同様の懸念が他所でも見られたこともあり、政府は今回、選挙区ごとに集落(あるいは複数集落の中心地)に全候補者を集め、有権者に公約を順次披露してもらう会合を開くことにした。民主政の下で「個人の自由」が行き過ぎることのないよう、また、これまでブータンで大切にされてきた社会紐帯がゆさぶられないよう、ひいては、他国のように政治が民衆の手から離れないようにしようという意図からである。A村の人たちも概ね、候補者に直に接する機会ができたことで、誰に票を投じたら良いかをよく考えることができたと考えている。 以上の通り、ブータンでも他国同様、民主政による「個人の自由」の増進とそのしわ寄せが見られ始めているが、人びとの間でも、政府の側でも、ブータンでこれまで大切にされてきた共同体意識を大事にしようという「公共性の観点」が意識されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「当初の計画以上に進展している」と評価した第一の理由が、研究自体の進展である。平成25年の国政選挙の調査を通して、ブータンでは「個人の自由」と「公共性の観点」の折り合いという民主政の課題がどう取り組まれているのか(=本研究の目的)、一層明らかとなった。先進諸国では一般的に政治不信や無関心が有権者の間で高まり、政治参加意欲も減退してきたため、政治家の「自由」は放任されやすく、民主政の形骸化が進んでいる。ブータンでも同様の問題の萌芽は見られるが、民主政の下で「公共性の観点」が失われないよう、上述の集落での立会演説会をはじめ、人びとの政治参加意欲を損なわない工夫が政府によって施されている。 第二の理由は、研究成果を日本・ブータンの一般の方にも広く発信することができたことである。日本国内では、ブータンに関心を寄せる方たちの集まりに2度招かれた。日本ブータン友好協会主催の第2回ブータンシンポジウム『ブータン、民主化への挑戦 ―2013年総選挙までの道のりとこれから』(平成25年12月15日、パネリストとして参加)、そして、NPO幸福の国(福井市にてブータンミュージアムを運営)主催の国際幸福デー記念イベント『幸福ってなあに?』(平成26年3月21日、「ブータンに学ぶこれからの生き方」という題目の招待講演)である。ブータンでは、市民団体Bhutan Center for Media and Democracy (BCMD)の発行する『Mi-Khung』紙(Vol.3, Issue 2、平成25年10月号)に、「Exploring Bhutan's “Natural Democracy”」という論考を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度を迎えるので、調査研究自体のとりまとめにくわえて、成果発信にもより積極的に取り組みたい。成果発信に関しては平成26年度は、ブータン王立経営大学(Royal Institute of Management)の教員との共同研究に力を入れたい。その一環として、平成26年8月には、同大学で本研究の成果を発表する計画を立てている。その際、同じくブータンの民主政の調査に取り組む同大学の教員にも話してもらう予定である。会合後はその結果を踏まえて、英語論文の共同執筆に取り掛かる予定である。 調査研究自体に関しては、引き続き、首都ティンプで政治家、官僚、知識人にインタビューを行い、民主的手続きで選ばれた政権がどのような成果をあげているのか、また、どういう課題が明らかになったのかを調査したい。またA村にも出向き、民主政が地元の人たちの生活にどのような変化をもたらしてきたのか、また、新しい政権にどのような期待を抱いているのかについて、人びとの意見を聴取する。さらには、聞き取り調査で得られた情報を基に、ブータンで「個人の自由」と「公共性の観点」の折り合いという民主政の課題がどう対処されているのかを分析し、両者の折り合いのついた民主主義をどうすれば実現できるのか、教訓を導き出したいと考えている。
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