2011 Fiscal Year Research-status Report
道徳的行為の動機付けに関する内在主義と誠実さの徳倫理との関連についての研究
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23520002
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藏田 伸雄 北海道大学, 文学研究科, 教授 (50303714)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | メタ倫理学 / 内在主義 / 行為の動機づけ / 倫理学史 / 徳倫理学 / 功利主義 / トマス・ネーゲル / マイケル・スロート |
Research Abstract |
本年度の10月には徳倫理学の代表的な研究者であるアメリカ・マイアミ大学のMichael Slote氏を招聘し、The Use of Moral Judgementと題するセミナーを開催して道徳的感情主義と道徳判断との関連について討議する場を持った。また同氏はAgainst Moral Self-Cultivationというタイトルで講演を行い、それをもとにして道徳的自己陶冶に関する批判的な検討を行った。それによって徳倫理学と感情主義との関連がより明確なものとなった。 本年度は特に2月24日に連携研究者の児玉聡氏、奥田太郎氏を中心に研究会を開催し、現代英米のメタ倫理学に関する基本動向とその哲学史的背景に関する整理を行い、特に功利主義に対してカント倫理学が与えた影響を明らかにした。さらに現代行為論、及び道徳実在論に関する議論の整理を行い、行為者の合理性と、欲求及び行為の評価との関連と、ロバストな道徳実在論の問題点について検討した。また哲学者ウイギンズの方法論を手がかりとして、メタ倫理学の方法論に関する検討を行った。日本におけるメタ倫理学的研究では、行為者の合理性に関する検討が十分ではないが、そのような点について検討したことは重要であると考える。 さらに本年度は動機内在主義に関する古典的な著作であるトマス・ネーゲルの『利他主義の可能性』の翻訳作業を進めた。本書は現代のメタ倫理学、特に道徳心理学に対して大きな影響を与えており、本書の翻訳には大きな意義があると考える。 また本年度は日本哲学会、応用哲学会、日本倫理学会に参加し、関連する研究を行っている研究者とのネットワークを形成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
徳倫理学の代表的な研究者であるMichael Slote氏によるセミナーを開催することにより、道徳感情主義と徳倫理学及び道徳的行為の動機付けとの関連についてある程度の見通しが得られた。また研究会の開催を通じて、動機内在主義、行為の合理性、道徳実在論、倫理思想史に関する近年の研究についての情報交換を行うことができ、メタ倫理学の主要文献に関する情報を共有することができた。研究動向の調査とネットワークの構築については、予想以上に作業が着実に進みつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点では研究の成果はまだ学会発表や論文等には結実していないが、24年度には、まず4月に応用哲学会第四回年次研究大会(千葉大学)でトマス・ネーゲルと動機内在主義との関連に関する発表を行う。他に日本倫理学会でも、動機内在主義に関する発表を行うことを予定している。また本年度中に現代のカント研究に動機内在主義が与えた影響についてサーベイし、カント研究会において発表し、関連する論文を執筆する予定である。なお、昨年度はマクダウェルの徳倫理学について、マクダウェルに詳しい研究者にインタビューを行う予定であったが、都合により中止になったので、今年度にインタビューを行う予定である。マクダウェルは認知主義と結びついた徳倫理学の立場であり、マクダウェル倫理学の研究は、本研究にとって重要な課題である。また本年度は動機内在主義に関する研究を進めている若手研究者を中心とした研究会を2回程度開催する予定である。また本年度はメタ倫理学を代表する研究者である、準実在論的表出主義のサイモン・ブラックバーン(Simon Blackburn,イギリスOxford University)と、道徳心理学の代表的な研究者であるシノット=アームストロング(Sinnott-Armstrong,アメリカDuke University)を招聘し、セミナーと講演を依頼する予定である。今年度は道徳実在論の検討と、表出主義に関する検討を行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度3月に予定されていたドイツへの出張が先方の都合で中止になった。また3月に予定されていた東京への出張一件が個人的な理由により、中止になったため約65,000円が未使用になった。そのため約30万円の未使用金が生じている。しかし申請時には24年度に招聘する海外の研究者として一人を想定していたが、その未使用金をもとにして、次年度は二人の研究者の招聘を予定している。 次年度は直接経費140万円を予定している。使用の内訳は、シノット=アームストロングの招聘費が約38万円、サイモン・ブラックバーンの招聘費として約43万円、物品費(特に関連書籍購入)12万円、研究会開催費用16万円、学会参加費等26万円、謝金5万円である。
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Research Products
(1 results)