2012 Fiscal Year Research-status Report
道徳的行為の動機付けに関する内在主義と誠実さの徳倫理との関連についての研究
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23520002
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藏田 伸雄 北海道大学, 文学研究科, 教授 (50303714)
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Keywords | メタ倫理学 / 道徳判断 / 動機内在主義 / 行為の動機付け / 表出主義 / 道徳性 / 徳倫理学 / トマス・ネーゲル |
Research Abstract |
本研究の目的は、動機内在主義と徳倫理学とが必然的な関係にあることを明らかにすることである。動機内在主義は道徳判断と行為との関連についての主張だが、動機内在主義は本来情動主義、つまり表出主義に付随する非-認知主義的な主張として提起されたものである。しかし現代の動機内在主義はそのような旧来の非-認知主義的な内在主義とは異なり、道徳判断の真理性を前提した認知主義的なものである。 まず本年度は、そのような認知主義的動機内在主義をとる代表的な論者であるトマス・ネーゲルの内在主義の構造をその著書The Possibility of Altruismに即して明らかにし、その成果を応用哲学会で発表した。 また動機内在主義の代表は哲学史的に言えばカントであると言われることが多いが、カント倫理学は尊敬概念という感情による動機付けを考える外在主義であるとする解釈もある。近年のカント研究に関するサーベイした上で、そのような解釈を批判し、その成果を「カント研究会」及び「北日本哲学会」で発表した。 また本研究費により招聘したSinotte-Armstrong(米・デューク大学)氏によるセミナーでは、「道徳性」という独立した領域はあるのかということを議論した。さらに準実在論の立場をとりつつ表出主義の立場をとるSimon Blackburn(イギリス・ケンブリッジ大学)と表出主義と合理性との関連について議論することにより、非還元主義的な道徳実在論の可能性について議論した(Blackburn氏は当初は本研究費で招聘する予定であったが、別の予算で招聘することになった)。 また動機内在主義と表出主義との関連について明らかにするために研究会を開催し、外在主義、表出主義の展開、Is-Ought Gap、フレーゲ=ギーチ問題について議論し、表出主義が認知主義を前提することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は動機内在主義と徳倫理との関連を明らかにすることだが、研究開始から二年を経て、現時点では徳倫理学と動機内在主義との間に関連があることは、ほぼ間違いないという確信を得た。さらに研究の過程で内在主義-外在主義の論争は、道徳判断に関する定義と理解の相違によるということについても確証を得た。この点については、Sinnotte-Armstrong,Simon Blackburnの両氏からも同意を得た。特にSinotte-Armstrongとの議論により、「道徳判断」そのものに統一性があるわけではなく、「道徳判断」と行為の動機付けとの関連を中心にした動機内在主義の問題設定は、かなり特殊なものであることが明らかになった。 さらに「格率」と「道徳法に対する尊敬」概念を中心とするカント倫理学の構造は、動機内在主義的ではあるが、道徳判断をキーワードとする厳密な意味での動機内在主義とはやや異なることが近年のカント研究のサーベイを通じて明らかになった。 またトマス・ネーゲルと近年の表出主義に関する検討を経て、本来は情動主義的・非-認知主義的な主張であった表出主義が道徳判断に真偽帰属が可能であるとする認知主義的方向に向かいつつあることを確認した。また道徳判断を表出主義的に理解するかどうかという問題は判断一般をどのように理解するかという問題と重なっていることが明らかになり、動機内在主義の問題は、道徳心理学の問題に限定されないということも明らかになった。 またトマス・ネーゲルの主張の内容を検討することにより、動機内在主義に関する問題設定と、行為の合理性(将来の利益の考慮)、利他主義、エゴイズムと独我論といった諸問題との関連も明らかになった。 以上のように、本研究の開始の時点では予想していなかった点が次々と明らかになり、当初の計画以上に進展していると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は研究成果の一部を、応用哲学会、カント研究会、北日本哲学会で発表することができたが、今年度はさらに日本倫理学会、さらにカント研究会で研究成果の一部を発表する予定である。動機内在主義が現代のカント研究に与えた影響については、昨年度ある程度サーベイすることができたので、本年度はその成果をまとめて論文化する予定である。また一昨年度にマクダウェルの徳倫理学に詳しい研究者にインタビューを行う予定であったが、都合により中止になったので、今年度に実施する予定である。また次本年度は、それとは他に現代的な観点から徳倫理学に関する研究を進めている研究者を中心に研究会を実施し、メタ倫理学的な道徳心理学と徳倫理学との関連について見通しを得たいと考えている。さらに次年度は自然主義的な立場から見た動機内在主義に関する研究会を実施する予定である。 また昨年度、本年度とトマス・ネーゲルの『利他主義の可能性』の翻訳と検討作業を進めてきた。本書は動機内在主義と関連する問題(自我や言語)について、的確に整理している。具体的には、行為の動機付けと合理性、自己の利益を考えること(prudential)と利他性、合理性と利他性、未来の自己との同一性、行為の動機付けを与えるものは個別的な判断が、非人称的な原則なのかといったことを問題にしている。次年度は本書の内容について具体的に分析し、その内容を論文化する準備を行いたい。 さらに本年度は資料収集のためイギリスに出張してBritish Society for Ethical Theoryに参加する予定である。 さらに連携研究者・研究分担者とともに今までの研究成果を明らかにし、ウェブ上で公開することを予定している。また本年度は、研究成果を公開するために本研究課題に関する「哲学カフェ」を開催する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は研究会2回(徳倫理学で1回、自然主義または実在論で1回)を予定している。場所は北海道大学を予定しているが、道外からの研究者の招聘を計画しているため、51万円を計上している。また東北大にインタビューに行き、他に関連する学会に参加(応用哲学会、日本哲学会)し、また成果発表(日本倫理学会)及び連携研究者二名との研究打合せ(京都大学・南山大学)を予定している。 なお昨年度に本科研費の予算で招聘する予定であったサイモン・ブラックバーン氏を他の資金によって招聘することができたため、約30万円の未使用金が生じている。次年度は直接経費141万円を予定している。使用の内訳は、イギリス出張に30万円、物品費(特に関連書籍購入)15万円、研究会開催費用46万円、学会参加費・研究打合せ旅費45万円である。
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Research Products
(1 results)