2012 Fiscal Year Research-status Report
知識の文化的・言語的差異と民間意味論に関する実験哲学的研究
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23520003
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
水本 正晴 北陸先端科学技術大学院大学, 先端領域基礎教育院, 准教授 (70451458)
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Keywords | 国際研究者交流 / アメリカ / イギリス / 認識論 / 言語哲学 / 意味の理論 / 言語学 / 文化心理学 |
Research Abstract |
昨年度からの研究の成果として、真理条件でなくより話者の意味に忠実な内容を捉えられる言語の意味の理論を「知識条件」として提案した。これは真理条件に従来語用論的な内容とされるものを加えたものを、「現実の情報に対しmonotonicな信念の内容」、すなわちMizumoto (2011)で分析された「知識」の内容として統一的に説明しようとするものであり、それにより例えば直説法条件文の内容を真理条件(実質含意)+規約的推意でなく一つのプリミティヴな内容として説明した。これは「かつ」と「しかし」の区別なども含め、語用論的「残余」とされていた意味を統一的に説明する理論となる。この内容は6月の科学基礎論学会で「真理条件から知識条件へ」という題で発表された。 また11月にワークショップExternal Critiques of Experimental Philosophy、およびシンポジウム"Know in Japanese" を開催し、それぞれにおいて提題者として発表を行った。 12月には招待された日本認知科学会のワークショップにおいて、言語の起源の探究が言語の規範性の起源の探究と切り離せないとして、言語が意味を持つ、ゆえに言語が言語であるための条件として規範性を強調し、その基礎にあるものとしてウィトゲンシュタインの生活形式概念を提出した。これは信念変化のパターンの差異をそれが埋め込まれた生活形式の差異として説明し、「知識条件」の考えをより広い文脈の中に位置づけることに貢献した。 また12月に出版された著作『ウィトゲンシュタインvs.チューリング』は、数学の哲学から心の哲学へと至るウィトゲンシュタインの思想をチューリングとの対決から追いながら、数学の言語の意味を生活形式の中で問うことで、言語の意味の考察がいかにあるべきか、言語の意味とは何か、についての一つの描像を提出することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
11月にはラトガース大学のスティッチ教授を招き、科学基礎論学会の秋の例会において実験哲学についての「外在的」批判という観点からワークショップを行った。言語学的、心理学的、ウィトゲンシュタイン的観点から実験哲学についてどのようなことが言えるかを考察するものであり、これは科学基礎論学会の英文誌の特集となって出版されることが決まった。 さらに同月、予定していた"Know in Japanese" についてのシンポジウムを海外からの若手研究者2名とEric McCready教授、飯田隆教授を加えて開催し、日本語の「知っている」(および「分かっている」)と英語の"know" の違いを具体的に考察することで、特定の言語の直観にのみ基づき認識論を展開することについて大きな疑問を提示することができた。これは今年度開催される、日本語に限らず世界の様々な言語の考察を含めたより広い文脈からこうした問題を考察する"Epistemology for the Rest of the World" という国際学会の下地を成すものとなった。 また研究においては、言語の意味についての考察が、信念変化理論をもとにした知識の理論を結びついたことにより、言語についての直観の文化的差異をも信念変化のパターンの違いとして説明する見通しがついた。 例えば指示についての直観の言語による差異は、Machery et al. (2004)以来データの解釈も含め盛んに議論されてきたが、それは言語が主題優勢か主語優勢かの違いによって、そして後者は生活形式に埋め込まれた信念変化のパターンの違いによって、説明されることになる。 またknowing howについての英語と日本語の違いについての考察も成果を上げており、8月の国際学会において共同発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
もっとも力を入れるのは8月の国際会議である。これは海外から哲学者と言語学者を招き、比較言語学的な意味についての研究を認識論的語彙、特に知識述語に対し応用することで認識論に対する貢献を目指すものであり、会議の参加者の発表も含め会議の内容を書籍または雑誌の特集として国際的な場で発表することを目指す。 また意味についての理論を経験的に検証するため一般の日本語と英語の話者を対象に経験的調査を積極的に進めていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主に8月の国際会議への講演者の招待のための旅費および謝金として使用する。
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Research Products
(6 results)