2012 Fiscal Year Research-status Report
知覚行為論の構築─生態心理学・現象学・認知哲学の観点から─
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23520005
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
小林 睦 東北学院大学, 教養学部, 教授 (20292170)
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Keywords | ギブソン / 生態心理学 / 表象主義 / 古典的計算主義 / フォーダー=ピリシン / 直接知覚説 / ギブソニアン / ターヴェイ=リード |
Research Abstract |
平成24年度は,当初計画とは若干異なる観点から,着手された。本研究がまず行なったのは,知覚行為のあり方を,人間と動物との比較対象という形で,現象学および進化生物学的な観点から検討することである。その成果は「人間と動物─世界に棲まうことの意味─」として発表された。 その上で,上記研究と並行して,当初の計画に沿った研究作業に従事した。すなわち,ギブソンと古典的計算主義における知覚論を比較することを通して,両者の異同を明らかにする作業を行なった。具体的には,①まず,ギブソンの生態心理学的な知覚論に対し,古典的計算主義者であるフォーダー=ピリシンが加えた批判について改めて検討することを試みた。②次に,計算主義によるギブソン批判に対し,ギブソニアンたちが行なった反論の内容を吟味し,知覚の本性にかんする論争の意味を考察する作業を行なった。③以上を踏まえた上で,ギブソニアンと計算主義のあいだでなされた論争の帰趨を確認する作業を継続中である。これらの成果は平成25年度に発表される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究は,ほぼ当初計画に沿う形で行なわれた。 ①まず,ギブソンの生態心理学的な知覚論に対し,古典的計算主義者であるフォダー=ピリシンが加えた批判について改めて検討することを試みた。こうした議論の対立に見られるのは,ギブソンによる知覚の直接説(消去主義)と計算主義の唱える知覚の間接説(表象主義)との解釈上の対立である。こうした作業は,第二の作業のための概念的な前提を分析しておくという意味で,不可欠な過程にほかならない。 ②次に,計算主義によるギブソン批判に対し,ギブソニアンたちが行なった反論の内容を吟味し,知覚の本性にかんする論争の意味を考察する作業を行なった。具体的にフォーダー=ピリシンによるギブソン批判に対し,ギブソニアンであるターヴェイ=リードが行なった反論の内容を検討した。 ③以上を踏まえた上で,ギブソニアンと計算主義のあいだでなされた論争の帰趨を確認する作業は次年度も継続される。そのための基本文献となったのは,フォーダー=ピリシンによるギブソン批判「視覚はどのように直接的か」と,ターヴェイ=リードによる反論「知覚と行為の生態学的法則」である。 以上の成果は論文「計算主義とギブソン─〈フォーダー=ピリシンvs. ギブソニアン〉論争をめぐって─」として発表予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策については,特に変更はない。従来の計画通り,生態心理学,現象学,認知哲学が,知覚を受動的な感覚の統合としてではなく,能動的な行為の連関として理解しようとする点を評価しつつ,それらの異動を踏まえた上で,「知覚行為(perception act)」の本性を解明することを試みる。平成25年度は,認知哲学における二つの知覚論を比較考察することを試みる。その上で,研究全体のまとめとして,当該年度までの研究の成果を振り返り,「知覚行為論」のあり方についての確認を行なう。そのためには,以下の三つの作業を行なうことが必要となる。 ①まず,A.ノエの知覚行為論を検討する。自らの方法を「イナクティヴ・アプローチ(enactive approach)」と呼ぶノエにおける「イナクション(enaction)」概念の内実を正確に把握することが,最終年度の第一の課題となる。そのために本研究が行なうのは,雑誌〈PSYCHE〉で展開されたノエ批判の内容を分析し,その当否を吟味することである。 ②次に,生理学者A.ベルトスと哲学者J-L.プティとの共同研究『行為の生理学と現象学』を精査する作業を行なう。プティは,ベルトスとのあいだでお互いの草稿をやりとりすることにより,知覚と行為の生理学という分野での新しい理論と発見を,E.フッサールにおける「キネステーゼ論」とつき合わせることを試みているからである。こうした研究が,ノエらによる知覚論とどのような接点をもちうるのかを検討しなければならない。 ③最後に,生態心理学的な知覚論と,以上のような認知哲学的な知覚論との異同を考察することによって,本研究が「知覚行為」のあり方について何を明らかにしえたのか,また,「知覚行為論」の可能性と今後の課題はどのようなものなのか,を示すことが本研究の最終的な目標となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は個人研究であり,文献を中心とする研究である。「研究計画・方法」において述べた研究規模,研究体制を維持しつつ研究を行なうためには,主として以下の項目にかんする経費が必要となる。①コンピュータおよび周辺機器の新規購入費,②ソフトウェアの新規購入および更新費,③文献調査および成果発表のための旅費,④書籍購入費,⑤その他雑費(海外文献複写費など)。以上の項目のうち,④の書籍購入費としては,認知科学関係図書,分析哲学関係図書,現象学関係図書が中心となる。
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Research Products
(3 results)