2014 Fiscal Year Annual Research Report
道徳の形而上学的基層の批判的検討─ミニマルな道徳形而上学の再構築のために
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23520006
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
宇佐美 公生 岩手大学, 教育学部, 教授 (30183750)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 倫理学 / 形而上学 / 自然主義 / 道徳の基礎 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はこれまでの研究において明らかになったことを確認しつつ、残された課題の解決を兼ねて全体の総括を行った。 脳神経科学や道徳心理学における道徳の基盤研究では、道徳的判断や行為への動機づけが、脳の感情的部位に多くを負っていることが示され、形而上学的概念による行為の理性的理由づけはせいぜい事後的な説明にしかならず、むしろ幻想的性格が強いことが、これまで自然主義者によって強調されてきた。それを受け本年度は、進化生物学分野での道徳性の基盤研究や脳科学による「自己」や「自由意志」などの信念が生成に関する研究を手がかりに、理性的理由付けで参照される形而上学的概念には、幻想的性格も指摘できるが、だからといってそのまま消去可能とは限らず、むしろそれがあることでしかるべき道徳的主体形成が可能になっていること。そして仮に自然主義者の要請に基づき消去した場合には、道徳的課題を帰結主義的に評価してしまう傾向を強め、最終的には功利的視点からのエンハンスメントの導入を許容することに伴う新たな道徳的課題を引き寄せることになることを明らかにした。 研究全体としては、自然主義者による形而上学的概念批判の意味を積極的に認めつつも、彼らによる道徳生成のシナリオを分析・再評価することで、自然主義者でさえ「よい生」を構想せざるを得ない限りで、「尊厳」や「目的自体」といった形而上学的概念や価値については尊重する傾向にあることなどを確認することができた。また道徳の形而上学的概念については幻想的である反面、道徳的主体の組織化という新たな次元の創発に関わっていることが脳科学者の研究によって示されたことで、カントが人間の宿命として受け入れつつもその批判を試みざるを得なかった形而上学の問題が、実は自然の内に根を持っていて、その両義性をどのように評価し、教育や実践に生かすべきかが今後も課題とならざるを得ないことが確認された。
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Research Products
(5 results)