2012 Fiscal Year Research-status Report
日本的美意識の哲学的基礎づけ―侘び・寂び・幽玄を中心に―
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23520007
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 透 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (60222014)
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Keywords | 哲学 / 美意識 / 侘び / 寂び / 幽玄 |
Research Abstract |
平成24年度の研究計画は、美としての「寂び」概念を分析するとともに、「幽玄」概念の分析にも着手し、平成25年度に研究全体を取りまとめることができる地点にまで研究を進めることであった。このうち、「寂び」概念の分析については論文を発表し、いちおうの成果を得たといえる。すなわち、従来「さび」の原義についてはおおむね二通りの解釈が行われ、そのどちらに軸足を置くかによって美としての「さび」の理解も異なっていたが、その問題を見渡していちおうの判断を与えた上で、とくに寂びの概念を、後に野家啓一が「積時性」呼ぶことになった時間性と関連づけて理解しようとする大西克礼の「寂び」論を参照しつつ、その不十分さと利点とを指摘し、また美および芸術にエポケー機能ならびに開示機能という二つの機能を見定めようとする拙論の立場から「寂び」概念の独自性を分析したことは有意義であったと思われる。 しかし、その分析の過程で浮かび上がってきた問題、すなわち〈なぜ侘びが茶道に即して語られることが多く、寂びが俳諧や発句に即して語られることが多いのかという疑問を、侘びと寂びを空間的性格と時間的性格との対比として位置付けることで解明できるのではないか〉という問題は十分追求されずに残されてしまったし、また「幽玄」に関してはほとんど踏み込めずに終わったという点は、心残りであった。また、基本的にはカントの『判断力』批判に依拠している美意識一般の分析をさらに深める必要性も感じられ、こうした諸課題は平成25年度に追求すべきものとして残された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、初年度であった昨年度の遅れを取り戻し、「寂び」概念のいちおうの分析にまで到達できたことは、それなりの成果であったと自己評価できる。ただし「幽玄」については未着手であることと、「侘び」「寂び」についても、研究途中で浮上してきた問題点も含め、議論の細かな論点や事例研究を増やすなど、さらに展開すべきことも多いので、最終年度にはさらなる達成を目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成25年度の研究推進に際しては、以下の点に留意するつもりである。(1)平成24年度には未着手であった、「幽玄」概念の分析に取り組む。(2)前年度までの分析で浮上してきた問題や、すでに行った論述の細部を詰めるなど、補足、拡大を行う。(3)研究全体を取りまとめる努力を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「幽玄」の理解には文献上の考察だけではなく、実地の研修によって理解を深めることが不可欠であるように思われるので、「幽玄」を標榜する芸術の実地研修に旅費を充当しつつ、幽玄の分析をできる限り進めたい。また、必要な文献の購入等は従前通りであるが、最終年度であるので、成果のとりまとめや発表にも予算をあてる。
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Research Products
(1 results)