2011 Fiscal Year Research-status Report
ヴォルフ主義哲学との関係から見たカントのヴィルキューアの自由をめぐる総括的研究
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23520013
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
檜垣 良成 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (10289283)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | カント / ヴォルフ主義哲学 / バウムガルテン / ヴィルキューア / 自由 |
Research Abstract |
ヴォルフ主義哲学の代表者の一人であるアレクサンダー・ゴットリープ・バウムガルテン(Alexander Gottlieb Baumgarten)の『形而上学』(Metaphysica, 1739 Halle. 4. Auflage, 1757)第3部「心理学」の「経験的心理学」(Psychologia Empirica)の中の「欲求能力」(facultas appetitiva)論のテクスト(§.651-732)のうち、特に「上級欲求能力」、「意志」(voluntas)、「自発性」(spontaneitas)、「ヴィルキューア(随意欲求(能力))」(arbitrium, Willkuer)といった概念にかかわる部分を再検討した。 その結果、バウムガルテンが概念規定および立論形式に関してカントに与えた影響は決定的であって、このコンテクストを踏まえることなしにカント哲学を十分に理解することは不可能であるということを改めて再確認した。 特に、快の感情と欲求能力との関係については、後者が前者に依存するという点を不可避としたバウムガルテンに対して、カントはこの思想を正面から受けとめ、何とか打開策を見いだそうと模索したあげくに、「理性」の純化の徹底という唯一の方策へと至ったのであるが、『実践理性の批判』における有名な「理性の事実」という思想は、この模索の必然的帰結と見なすべきであるということも確認された。 価値観が多様化し、共有できる善を見いだしがたい現代において、それでも人を人として崩れ落ちてしまわないようにするためには、何らかの理性ないし法が不可欠である。カントの「理性の事実」という思想は、一種の開き直りのようにも見えるが、人間の力ではどうしようもない不運にあっても人が自尊心をもって生きてゆけることを保証するという点で、むしろ現代においてこそ再評価されてしかるべきものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
バウムガルテンの『形而上学』の関連個所を再検討するという研究目的は、前年度までの研究の継続ということもあって、持続的に遂行できた。まだ、最新の成果は活字化できていないが、整備したうえで、次年度、公表予定である。 「自由」の概念そのものについての本格的な検討には至っていないが、そのかわり、日本倫理学会の主題別討議「カント倫理学と現代」にて、カントの義務論、「理性の事実」思想の意義について、少し本研究の結論を先取りする形で提題発表する機会を得た。 多少順序は前後しているが、当初の研究目的はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に検討したバウムガルテン『形而上学』の関連個所(上級欲求能力=意志についての教説)の訳注を十分に推敲した上で活字化する。それと合わせて、ヴィルキューア(Willkuer)の概念の検討を本格化させるにあたっては、バウムガルテンとカントの母国であるドイツにまで資料調査検討に赴き、より研究の正確さを極められるように努める。通常、わが国では「選択意志」と訳されるヴィルキューアであるが、理性をもたない動物にも備わる能力であるとバウムガルテンとカントが解している以上、本来「理性」を条件とするはずの「意志」という訳語を当てることは不適切と思われる。そして、このヴィルキューアの概念が、まずは1781年の『純粋理性の批判』においてどのように位置づけられているか、そしてそれの「自由」がどのように理解されているかを、バウムガルテンとの対比において明らかにする。さらには、1785年の『道徳形而上学の基礎づけ』におけるこの思想の転換、そして1788年の『実践理性の批判』におけるそれの確立を確認する。 最終的には、従来、「選択の自由」理解のかなめであった1793年の『単なる理性の限界内の宗教』におけるヴィルキューアの自由の思想を精査して、この著作でカントは『基礎づけ』や『実践理性の批判』の「自律」としての「自由」とは異なる「選択の自由」を主題化したとする従来の解釈が誤解であることを明らかにする。また、晩年の1797年の『道徳形而上学』における「意志」と「ヴィルキューア」との区別の思想も『基礎づけ』や『実践理性の批判』の思想を変更するものではなく、単に既に明らかにされていた「意志」の純粋性の思想を改めて表現し直したものにすぎないということを、やはりバウムガルテンの思想との対比において、検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
日本では「選択意志」という不適切とも思われる訳語を当てられることが多い「ヴィルキューア」の概念のより正確な文献学的歴史的理解を獲得するためにドイツに赴いて資料を調査検討する。そのために多くの旅費を使用する。 関連する研究資料、論文作成のためのツールおよび文具等の購入に物品費は使用され、また、入手困難な文献の複写費、郵送費等にも研究費は当てられる。
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Research Products
(4 results)