2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520016
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
藤本 温 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80332097)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | トマス・アクィナス / 記憶 / 認識論 |
Research Abstract |
本研究「西洋中世十三世紀の認識論研究」は、西洋中世十三世紀の認識論研究の発展に寄与するために、まず、トマス・アクィナスによる『アリストテレス 記憶と想起註解』の翻訳を詳細な訳注を付して完成させることをめざしている。平成23年度の研究計画は、トマス・アクィナスによる『記憶と想起註解』の訳文をまずは一通り完成させるというものであった。当初の計画通り、平成23年度中に同書の日本語への訳出を一通り終えることができた(ただしあくまで初稿であり、点検は必要である)。また、最低限必要な訳注をつけたが、その作業の過程で、トマスの記憶論におけるキケロのprudentia論の重要性を再確認できた。すなわち、単に記憶論の領域に留まらず、記憶とトマス倫理学との関わりを考察する際には、キケロの記憶論とprudentia論の影響は軽視できないものであることを確認できた。訳文の他に、さらに詳細な註を付した上で解説文も書きたいと考えているので、次年度は、プラトン、アリストテレス、キケロ、アウグスティヌス、イスラム哲学、中世スコラ学、また現代に至るまで、広い範囲で記憶論ないし認識論に関する調査が必要になる。 また本年度は、上記の訳出作業の他に、トマスの師であるアルベルトゥス・マグヌスによる『記憶と想起註解』を日本語に訳出した。トマスはアルベルトゥスとは異なるラテン語訳を用いているようであり、両者の『記憶と想起註解』の内容を詳細に比較する研究の必要性と重要性を感じた。そうした研究は従来なされていないようなので、次年度はその比較研究にも取り組みたい。 なお、本研究と密接に関わるintentio概念に関して、「志向性概念の歴史」という論考を公表した。同論稿は、次年度以降に行うintentio論関連の研究の前提となるべき基礎研究である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究「西洋十三世紀の認識論研究」の平成23年度の研究計画のうち、その中心課題であったトマス・アクィナスによる『アリストテレス 記憶と想起註解』の日本語への訳出作業に関しては、同書の全体をこの一年間で訳出できたので、その点では当初の予定通り研究は順調に進んでいるといえる。その他、同書に対して最低限度必要な訳注をもつけ、さらにトマスの師であるアルベルトゥス・マグヌスによる『記憶と想起註解』の日本語への訳出も終了した。このように、作業の分量に関して言うならば本研究は順調に進展していると考えられる。 一方、研究を進める中で、トマスの記憶論の理解のためには、アリストテレスのみならず、プラトン、キケロ、アウグスティヌス、またトマスと同時代の神学者たちや、イスラムの哲学者たちの見解をより詳しく検討しなければならないことを改めて確認したので、この方面の調査を行うという課題が新たに生じている。他にも、記憶論とprudentia論との関わりでのキケロの重要性という論点や、ギリシア語で執筆しているアリストテレスと、ラテン語訳を用いてラテン語で註解しているトマスとの間での言語の差異に由来すると思われる理解の不一致といった論点、さらに、いわゆる「記憶術」と『記憶と想起註解』との関連性など、考察されるべき課題が出てきている。このように研究の進展とともに、課題も出てきてはいるが全体としては順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、まずは今年度訳出したトマス・アクィナスによる『アリストテレス 記憶と想起註解』の訳文を点検しなければならない。訳文の点検に際しては、二つの英語訳(E.M.Macierowski, J.Burchill)の他に、イタリア語訳(A.Caparello)もあるので、これらの先行研究を踏まえて点検作業を行う。次に、その日本語訳に対して詳細な註を付けて、解説文を書く。そのためには、記憶論ないし認識論に関して広い範囲での調査と研究が必要になる。すなわち、アリストテレスの記憶論はもちろんであるが、プラトン、キケロ、アウグスティヌス、またトマスと同時代の神学者たちや、イスラムの哲学者たちの見解、近現代の哲学者ではベルグソン、マルコム、リクールによる記憶論も視野に入れるべきだろう。特にトマスの生きた13世紀に関しては、トマスの師であるアルベルトゥス・マグヌスによる『記憶と想起註解』と、トマスの註解を比較検討するという課題が前年の研究の中から生じてきた。トマスはアルベルトゥスとは異なる翻訳(ラテン語訳)を用いているようであり、その差異がアリストテレスの『記憶と想起』の理解の差異につながっているということはあり得ることである。両者の理解がどの点で一致しており、どの点で異なっているのかが詳細に検討されなければならないであろう。他にも「記憶術」と『記憶と想起註解』との関連性、中世における「記憶術」の在り方についても、訳注や解説を書く際に必須なので調査が必要である。 また、今年のその一部を公表したintentio論関係の研究も、記憶論との関わりで次年度以降も継続して行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品(書籍)としては、西洋中世の認識論、記憶論、感覚論、知性論に関連する図書をはじめ、また本研究「西洋中世十三世紀の認識論研究」の背景的知識として必要になる西洋中世における存在論や論理学、またキリスト教思想関係の文献、さらに古代哲学(特にアリストテレス)や近世現代哲学における記憶論、認識論や存在論関係の図書を購入する。より具体的には、トマス・アクィナス関連の著作はもちろん、トマスとほぼ同時代の、アルベルトゥス・マグヌス、オウヴェルニュのギョム、ペトルス・ヨハネス・オリヴィの他、14世紀のドゥンス・スコトゥスやウイリアム・オッカム関連の著作、また古いところではプラトン、アリストテレスや、キケロ、アウグスティヌス関連の著作、さらに近現代の記憶論ないし認識論に関する図書を購入する。 また、本研究に関連する分野を専攻している研究者からの情報収集のため旅費(国内)を使用する。
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Research Products
(1 results)