2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520018
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中畑 正志 京都大学, 文学研究科, 教授 (60192671)
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Keywords | 意識 / 汝自身を知れ / 高階の感覚 / 共通感覚 / 内的感覚 / 内的触覚 / アリストテレス / プラトン |
Research Abstract |
本研究の目的は、意識概念の歴史的性格の解明を通じて、意識をめぐる哲学的諸問題に新たな示唆をおこなうことである。デカルト及びカドワースを中心とした近代における意識概念の形成をたどった前年度の成果を踏まえて、当該年度は、それに先立つ前史を研究した。 まず、古代における意識概念の有無や形成という問題と深く関わると考えられている自己知について、デルポイ神殿に掲げられたとされる箴言「汝自身を知れ」の起源と当時の理解を文献学的にたどり、それが世界と社会、他者との関係のなかでの自己の位置やあり方を知ることを基本的意味とすること、しかしプラトンは、その意味を基礎としながら、さらにこれを次の点で深化させていることを確認した。すなわち(1)『弁明』での神との比較における無知と他者との比較における知の自覚、(2)『アルキビアデス』における自己の内なる神的要素の認定、(3)『カルミデス』における高階の知の可能性の示唆、などである。そして (3)の論点をアリストテレスが「(自分が)見ていることを感覚する」という高階の感覚の分析において継承しており、その分析は、この高階の感覚が外的世界の感覚に伴うかたちで成立するという外在主義的な理解を示していることを論証した。さらにこの「見ていることを感覚する」という事態をめぐるキュレネ派やストア派の思考についても、「内的触覚」「内的感覚」「共通感覚」などの概念の理解とその変容を跡づけることによって、その後の展開についても一定の展望を得た。この「見ていることを感覚する」という事態は、デカルトが彼の「意識」概念を提示するときに注目した事態でもあり、この点での哲学者たちの思考の相違、とりわけアリストテレスとデカルトの扱いの対比は、近代の意識概念の特質と歴史性を物語ることが確認される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の「実施計画」を24年度分のすべて実行し、具体的な成果を挙げた。とりわけ意識概念の形成の歴史的背景については、古代ギリシア思想史全般のなかでの基層的思考と、プラトンとアリストテレスおよびストア派の具体的議論の分析をおこない、従来の解釈の誤りや問題を指摘し、より明確な理解を提示することができた。これは近代の意識概念の歴史性を照らし出す上でも重要な成果である。その一部は学会での発表、『西洋古典学研究』『哲学』への論文掲載、ソウル大学での講演などをつうじて公にすることもできた。したがって部分的には予想以上の成果を挙げているといってもよい。
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Strategy for Future Research Activity |
意識概念の形成の歴史的背景に関しては、24年度の研究において基本的な視座を得たが、さらにストア派や新プラトン主義、そして中世哲学については、共通感覚、自己知の理解を中心にさらに詳細な分析をおこなう。また、意識や自己意識に関する現代の活発な哲学的議論さらには心理学や認知科学の分析についても、こうした歴史的探索からどのような発言が可能であるのかを考察し、本研究の意義を明確にする予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
西洋古代後期を中心とした文献の購入およびそうした分析を遂行するためにデータを処理するのに必要な機器などを購入する。また、現代の哲学者や他分野の研究者との交流・議論の活性化や、英語での発表などのためにも使用する予定である。
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Research Products
(9 results)