2014 Fiscal Year Research-status Report
形而上学史再構築のための基礎的研究――カント《Opus postumum》への道
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23520019
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
福谷 茂 京都大学, 文学研究科, 教授 (30144306)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | カント / ヘノロジー / 近世哲学 / スピノザ / ライプニッツ / ハイデガー |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は特にハイデガー及びスピノザのカントとの関係に関する研究を行い、「カントとハイデガー」「カント『遺稿』におけるスピノザ」「カントの誤謬論 1」と題する論文として発表した。第1論文の内容はハイデガーの時間論をカントとの比較においてヘノロジーの一形態として捉えられることを明らかにしたものである。ハイデガーの時間概念が形而上学的な系列表象を超克することを狙いとしている限りにおいてカントと軌を一にするということができる。しかしまたカントと連関させることでハイデガー哲学のヘノロジーとしての特異性と限界を照らし出すという結果を得た。これは『遺稿』を中核にしてとらえたカント哲学の「体系」としてのハイデガーに対する優位性を新しく示すものである。このようにハイデガーをヘノロジーの観点から研究することは学界的には未着手の課題であり、パイオニア的な意義があると考えている。第2論文ではカントの『遺稿』との対比においてスピノザの『エティカ』第5部を捉えなおすことができることを指摘した。これは同時にスピノザを継承しつつ批判するライプニッツのモナドロジーの生誕という点に関して新しい洞察を与えるものである。公刊著作では通念を受け入れてスピノザを宿命論として忌避することに終始してきたカントしか現れていないが、両者のヘノロジーとしての在り方という観点を導入することで初めて最晩年のカントにおけるスピノザ評価の逆転という研究史上未解決のままになっている難問を解消しうる、という指摘は十分にオリジナルなものであることを自負しており、今後国内外の学会で発信する予定である。第3論文を含めこれらの研究を通じて明らかになってきたことはカント『遺稿』の持つ哲学史的な意味の大きさである。『遺稿』でカントはスピノザからライプニッツを経て自己につながり、ハイデガーに至る近世哲学史の文脈を形成し得たということができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論的枠組みの整備は予定以上に進捗しているが、カント『遺稿』の翻訳作業に関してやや遅れがみられる。これは理論的枠組みをなすヘノロジー概念のきわめて広大な射程が明らかになるにつれそれを解明する課題が喫緊のものとなってきたためである。
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Strategy for Future Research Activity |
カント『遺稿』の持つ哲学史的意義の大きさが確定してきたと判断しているが、その本質を性格付けるために適当な概念として「ヘノロジー」が役割を増してきた。このため「ヘノロジー」概念の基礎づけを重視して『遺稿』の翻訳および注解に従事したい。
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Causes of Carryover |
最終年度は出版および外国学会への出張が予定されているため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
①カント『遺稿』の翻訳出版にかかわる諸経費、②ウィーンでの学会講演及び欧州各地での研究交流のために出張する経費として使用する。
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Research Products
(3 results)