2012 Fiscal Year Research-status Report
健常者と障がい者との共生や対等性の意味に関する理論的考察
Project/Area Number |
23520022
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
宮崎 宏志 岡山大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (30294391)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
新 茂之 同志社大学, 文学部, 教授 (80343648)
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Keywords | 応用倫理 / 障がい / 共生 / 対等性 / 人権 |
Research Abstract |
現在,公的機関においては,障がい者の雇用が促進されており,健常者と障がい者とが共生する形がとられてきている。しかし,バリアフリーといった設備面などで障がい者の働ける環境が整えられつつある一方で,こんにちの競争的な環境のもとで障がい者が健常者と対等に競い合うとはどのようなことを意味するのかに関しては,明確な基準がいまだ確立しているとは言い難い。そこで,本研究では,公的機関における健常者と障がい者との対等性とはどのようなものでありうるのかについて倫理学的視点から考察することを目的とする。 平成24年度には,震災などの影響で平成23年度に十分な形で行えなかった文献収集,および,その内容の精査を行った。具体的には宮崎は「障がい者の側からみた現実世界や福祉の実態」に関する文献や,「自由や平等」,「連帯」,「人権」という主題に関わる重要文献などを収集し,そうした文献で展開されている主張の特徴や,その主張の長所や短所を探り出すとともに,そうした主張で見落とされがちな側面について検討した。特に,見落とされがちな側面として,「健常者とは世界の立ち現れ方が違う存在者として障がい者を理解し尊重する」という面が,現在の思想動向では,まだまだ不十分であることを確認した。 また,新は,平成24年度は在外研究でアメリカに滞在していたので,アメリカでの福祉思想やケアの思想などの現状や,それを巡って行われている議論に関して情報収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は,研究分担者の新が在外研究のため渡米したことにより,打ち合わせ会を通じての情報交換や議論はできなかったが,宮崎と新のそれぞれが,自らの担当する部分の研究を十分に深められたという意味では,研究は,おおむね順調に進んでいると判断する。 宮崎の担当部分で確認されたのは,福祉や障がい者の権利やケアに関する思想では,制度や社会進出に着眼点を置いたものが多い一方で,「健常者とは世界の立ち現れ方が違う存在者として障がい者を理解し尊重する」という視点からの思想は,十分に成熟しているとは言えないということである。思想的に掘り下げるべき側面が明確になったことが,一つの収穫である。 また,障がい者にかかわる制度や社会進出に着眼点を置いた優れた著作であっても,同じ著作のなかに理論的な主張と実践的で実際的な主張とが混在しており,しかも,理論的な主張の箇所に関しても,情熱的な論調で議論が進められている。こうしたことが,この種の著作を一般の読者には難解にしている一要因だと考えられるので,障がい者の権利や社会進出というテーマに関する理論的な主張に対して,あくまで理論的な正当化をめざすのが重要であると再確認できたことも,昨年度に獲得した研究見通しを裏づける収穫である。 さらに,新がアメリカにおいて最新の福祉思想やケア思想にふれて,その長所,短所を検討できたことも大きな収穫である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年4月に新が帰国しているので,宮崎と新は今後打ち合わせを重ねて,それぞれの研究成果を照らし合わせ,理論的モデルの輪郭を明瞭にしていく予定である。 具体的には,宮崎は,打ち合わせに際して,前述したような,「健常者とは世界の立ち現れ方が違う存在者として障がい者を理解し尊重する」という視点から,どのような提言を発信していくかの原案を用意しておく。 また,障がい者の権利や社会進出というテーマに関する理論的な主張に対して,あくまで理論的な正当化を企てていくという研究課題についても,宮崎が担当する。特に,この種のテーマに関する著作は,実践的で実際的な観点からの主張が織り交ぜられているとともに,情熱的な文体で議論が組み立てられており,そのことは,読者にアピールする力強さをもつという長所がある反面,その主張の学問的な正当性を分かりにくくしているので,そうした主張のうちで理論的に十分に正当化できる部分を析出するということが,中心的な作業になる。 新は,打ち合わせに際して,アメリカでふれてきた福祉思想やケア思想の意義や問題点を整理しておく。 これらの作業を通じて,障がい者と健常者との健全な共生のモデルの輪郭を形づくっていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は,研究分担者の新が在外研究で渡米したことにより,当初の研究計画を大幅に変更する必要があった。直接顔を合わせる形での研究打ち合わせができず,打ち合わせのための交通費その他の費用が発生しなかった。また,当初の研究計画を変更したことにより,アルバイトの雇用等の他者の協力を必要とする作業を平成25年度にまわすことにしたため,平成24年度の予算の未使用分が発生した。 平成25年度,宮崎と新は,前年度不可能であった分も含め,直接顔を合わせて時間をかけて議論する形での打ち合わせの機会を複数回もつ予定である。また,その打ち合わせを通じて,新たに購入が必要だと判明する文献や資料などを早急に入手する。平成24年度の予算の未使用分を含めた平成25年度の予算のほとんどは,こうした目的に使用する。
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