2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520025
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
倉田 剛 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (30435119)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 存在論 / 作品 / タイプ / 人工物 / 形而上学 |
Research Abstract |
2011年度の研究成果は、以下のかたちで公にした。(1)単著「志向的対象を再考する」(哲学会編『哲学雑誌』第126巻798号、有斐閣、2011年12月)、(2)単独発表「人工物の存在論とその方法について」(名古屋哲学フォーラム、南山大学、2011年9月3日)、(3)単独発表"Artworks as Dependent Type"(5th Interdisciplinary Ontology Conference, Tokyo, Japan, Keio University, 2012年2月23日) 論文(1)では、インガルデンとトマソンの立場、すなわち芸術作品をはじめとする文化的対象は、リアルな(時間空間に位置をもつ)対象とも、理念的対象とも、意識作用そのものとも区別される、志向的対象として記述されうるという立場を擁護しつつも、彼らの存在論的分析は、志向的対象が理念的対象ではないという点を強調するあまり、同一の志向的対象が、複数のリアルな対象や出来事によって実現(例化)されうるという事象を十分な仕方で考察しえなかったことを指摘した。われわれはタイプ存在論の立場から、「志向的タイプ」なる概念を提示することによって、彼らの分析の不足を補うと同時に、志向的対象の議論が、従来のタイプ/トークン理論が抱えてきた困難を部分的に解消しうることを示した。 発表(2)においては、抽象的人工物(芸術作品や貨幣など)の存在論をやや形式的に記述するとともに、その方法についてのメタ存在論的な考察を行った。その中でわれわれは、方法論的な自然主義に対して、従来の概念分析を含む哲学独自の方法を擁護する議論を展開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三年計画の初年度の研究としてはおおむね順調に進んだと考える。以下にその理由を記す。(1)作品存在論の基礎研究(インガルデンやウォルターシュトーフの存在論)に関して或る程度の研究成果を挙げることができた。(2)作品に関する領域的存在論から、一般存在論へのフィードバックが可能であること、そして「メタ存在論的」な観点から作品概念が極めて興味深い対象であることを示しえた。(3)従来の作品存在論が等閑視してきた実践の問題(とりわけ著作権の問題)を研究の範囲に組み込むことに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方策としては、基本的には平成23年度の研究を継続しつつ、次の点を付け加えることにする。(1)芸術作品の考察範囲を拡張し、今まで研究の中心となってきた音楽作品や絵画作品に加えて、文学作品、さらにはオペラ作品やバレエ作品といった複合的な芸術作品に関して分析を行いたい。(2)著作権という主題をもう少し掘り下げ、近代の法制度において、いかにしてそれが生じたのかという歴史的な問題を検討したい。(3)作品の領域的存在論を「人工物」一般の領域的存在論に適用することを試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究を実施するにあたって必要な文献資料を揃えると同時に、研究を円滑に行うために必要不可欠なOA機器を購入する。 また国内外の研究動向を知り、関心を共有する研究者たちと交流するために、積極的に学会や研究会等に参加する予定である。(平成23年度に遂行できなかった海外出張等を含む。)
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