2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520025
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
倉田 剛 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (30435119)
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Keywords | 存在論 / 作品 / 形而上学 / タイプ / 抽象的対象 / 著作権 |
Research Abstract |
2012年度の研究成果は次のかたちで公にした。 (1)単著「テクストの形而上学」(岡崎敦・岡野潔[編]『テクストの誘惑 フィロロジーの射程』九州大学出版会、2012年9月:137-157頁)、(2)単著「芸術作品の存在論―分析的形而上学の立場から」(西日本哲学会[編]『哲学の挑戦』春風社、2012年11月:167-209頁)、(3)単独発表「形式的存在論から社会存在論へ」(九州大学哲学会平成24年度大会、シンポジウム「中世普遍論から現代存在論へ」における提題発表、2012年9月29日)、(4)単独発表「サールの社会存在論:その基礎と展開」(北海道哲学会平成24年度後期研究発表会、2012年12月15日) 論文(1)では文学作品を多層的なタイプ複合体(語タイプ・意味タイプ・対象世界タイプ)として捉えることを提案し、それを基礎に文学作品の同一性の問題を論じた。また、同一作品の様々な変容(翻訳や脚本化)に関する形而上学的考察も行った。論文(2)では、あらゆる芸術作品をタイプとして捉える統一的存在論が可能であるかどうかが検討された。われわれは「タイプ化」という概念を認めることにより、従来は具体的な個物と考えられてきた絵画作品や彫刻作品も一種の抽象的対象として扱うことができるという主張を展開した。発表(3)では、形式存在論における幾つかのカテゴリー体系、とりわけコンティニュアントとオカーレンとを区分する体系が検討され、現代形而上学において盛んに議論されてきた「三次元主義」と「四次元主義」の対立が調停可能であることを論じた。さらに、社会存在論が扱う多くの存在者はオカーレントとして適切に分析されうることを主張した。発表(4)では、サールの社会存在論を取り上げ、その基本的な道具立てを検討した後、株式会社という制度的存在者を例にとり、サールの理論には幾つかの困難があることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三年計画の二年目の研究はほぼ予定通り進んだと言える。この平成24年度の研究では、作品の考察範囲を文学作品および絵画作品にまで拡張することに成功し、作品の「統一的」存在論を論じるための下準備が整った。また、社会存在論の研究を本格的に開始することにより、作品と集合的志向性との密接な関係を明確にすることへの、さらには芸術作品を一種の「制度的対象」として分析することへの足掛かりを掴むこともできた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方策は次のとおりである。 (1)これまでの研究方針を維持しながら、作品の考察範囲をさらに拡大する。具体的には、伝統的な芸術ジャンルから、現代芸術の様々なジャンル(パフォーマンス、インスタレーションなど)へと視野を広げる。 (2)考察範囲の拡大に伴い、われわれの基本理論(タイプ存在論)がどこまで有効であるのか、またどこに限界があるのかを検討する。 (3)引き続き社会存在論に関する研究を行いことにより、芸術作品を、社会的・制度的対象と同様の「抽象的人工物」として捉える一般的理論を構築することを試みる。 (4)作品の「変容」や「進化」という現象を正確に捉えるために、生物学の哲学における「種問題」(species problem)を積極的に参照する。近年の生物分類学では、生物種を「歴史的類」(historical kinds)と捉えることが一般的になっているが、こうした議論を作品という人工的タイプに応用することを考えている。 (5)三年間の研究成果を纏めて発表する機会を設ける。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究を実施するにあたって必要な文献資料等を揃えると同時に、研究を円滑に行うために必要不可欠なOA機器等を購入する。 また本研究に関連する最新の情報を入手し、関心を共有する研究者たちと積極的に意見を交換するために、国内外の学会や研究会に参加することを予定している。
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